第9話 覚悟
「やります。」
突然泰成が声をあげた。
「それはどういうことかな?」
春彦の問いかけに泰成は強い口調で返す。
「俺は、玉藻前に、環那に助けて貰ったんだ。コイツなら、玉藻前だろうが、三大害悪妖怪だろうが、制御できると思ってる。」
「泰成...。」
そんな泰成に春彦は試すように問いかける。
「大した自信だね。それじゃあもしも、彼女が玉藻前を制御できず、暴走してしまったら?」
「俺が必ず止める。誰も傷付けさせない。約束する。」
「じゃあもしも、玉藻前が誰かを殺めたら?」
泰成は1度下を向いたが、しっかりと前に向き直るとはっきりと言った。
「その時は玉藻前をコイツごと斬って俺も死ぬ。」
部屋中が沈黙に包まれる。突然春彦が大声で笑い出した。
「あはははは。そうかそうか。じゃあその覚悟見せて貰おうか。」
春彦は大声を張り上げた。
「十二天将及び幹部に通達する。この一件は不問とし、彼らを有力な陰陽師として、陰陽連で保護する。以上」
再び部屋中がざわめいた。
「陰陽頭様は何も考えておられるのか。」
「妖の宿主など。安全な保証はないぞ。」
部屋から出ようとした春彦は思い出したように2人に告げた。
「そうだ。2人とも、後で僕の部屋に来なさい。」
「はあ?俺たちが星稜院へ転校ぉ?」
春彦の部屋(正確には神宮支部長室)に呼ばれた2人は春彦から星稜院高等部に転校するよう言われていた。春彦は椅子を回しながら言った。
「そう。有力な陰陽師として保護すると幹部に大見得切った建前上、君たちには本部にいてもらわないと困るのでね。」
星稜院高等部 京都にある陰陽師育成の最高機関。
星稜院高等部に転校する以上、寮に入らなければならない。環那の肩が微かに震えた。それを見た春彦が言った。
「そうか。君はあの事件の当事者だったね。大丈夫。君たちに入ってもらう学校は星稜院だが、寮は違う。」
「え?」
思わぬ返答に2人は同時に聞き返した。
「陰陽連直属の寮、陰陽寮だ。」
春彦は口が空いたままの2人に向かって笑う。
「2人とも、家に帰って荷物をまとめておいで。」
その夜、指定された場所にやってきた2人の前に1台のワゴン車が止まった。
「陰陽頭様からの通達で参りました。お2人専属の補助員、吉田です。」
「補助員って?」
泰成の素朴な疑問に環那が答えた。
「任務の斡旋とか、現場の送迎とかしてくれる人。あんた、ほんとに何も知らないのね。」
「は?お前何様のつもりで...。」
「あんたのが陰陽師歴長いはずなんだけどな〜?」
「しょうがねえだろうが。俺たちの任務は寮がまとめて受けてたんだから。」
「出発しますよ。早く乗ってください。」
2人が振り向くと、いつの間にか手荷物以外の荷物は全て、ワゴンに積み込まれていた。
2人はワゴンに乗り込んだ。
「これから京都の本部に向かいます。」
「え?じゃあ私たちが今までいたのは?」
「あれは神宮町の地下にある儀式場です。今回は異例の事態でしたので、陰陽頭様が十二天将の方々をこちらに呼んだようです。」
「はあ。にしちゃあ広かったな。」
「陰陽連ってどれだけ支部持ってんだか。」
「...なあ環那。今更だけど、ごめんな。勝手な事言って。」
「ほんと今更だよ。誰かさんのおかげで、また陰陽師に両足突っ込むことになっちゃったし。」
「お前、大丈夫か?また陰陽師やることになっちまったけど。」
「だって大見得切った以上後戻りはできないでしょ?」
「もう一度やってみようと思うよ。」
「そうか。」
2人を乗せたワゴン車は京都へ向かっていく。
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