第4話 朧月の夢
その夜,環那は自室で翌日の準備をしていた。翌日から夏休みで,高校の校舎内で泊まり込み勉強合宿が予定されていたからだ。
「さて,明日の準備も終わったし,そろそろ寝ないと。」
そう言うと,ベッドに潜り込む。目を閉じながら,ふと泰成に言われた事を思い出した。
(私は陰陽師なんてものには二度とならない。あんな思いした後で,なれって言う方がおかしいのよ。)
そう自分に言い聞かせるうちに環那は眠りについた。
しばらくして,環那は目を覚ました。
[ん,ここどこ?私確か,部屋にいたはず...。」
「ここはそなたの夢の中じゃ。」
後ろから声がして,思わず振り返る。するとそこには若い,妖艶な女性が立っていた。一見人間にも見えたが,頭から生えた耳と,尻から生えた尻尾は間違いなく妖怪のそれだった。
「は?ちょっと待って,全く状況が理解しきれてない。て言うかあんた妖でしょ?あんた祓えばさ,ここから出られんじゃないの?」
「ふむ。当たらずも遠からずじゃ。」
環那の問いかけに,その妖は言葉を濁す。
「と言うより,今のお前には妾を祓えるだけの妖力なぞないじゃろが。環那よ。」
「はっどうかな。その気になれば...ちょっと待って。」
「ん?どうしたのじゃ?」
「何で私の名前知ってるの?」
環那の真剣な問いかけに妖はさも当然のように言う。
「知っておって当たり前じゃ。まさかお主,妾の名を知らぬのか?」
キョトンとする環那に向かって妖はため息をつき,
「玉藻前じゃ。よく覚えておくのじゃぞ。」
と言った。そして,ふわっと環那の前に飛んでくると,今までとはまるで違う真剣な表情で話し始めた。
「聞きたい事が沢山あるじゃろうが,今は黙って聞くのじゃ。」
「この街、世界でとんでもないことが起ころうとしている。街の陰陽師達では防ぎきれん。」
そして,玉藻前はより一層力を込めて言った。
「お主が止めるのじゃ。良いな。」
玉藻前は突然,パチンッと指を鳴らす。その瞬間,環那は意識が遠のくのを感じた。朦朧とする意識の中で,環那は玉藻前の声を聞いた。
「しばしの別れじゃ。頼んだぞ。子孫よ。」
環那は飛び起きた。額には大量の汗をかいている。
「あれ?どんな夢見てたんだっけ。」
ぼうっとしながら、時計を見る。午前4時まだ夜も明けていない。ふと窓を見て,環那はとんでもない光景を目にした。
本来なら,夜明け前で赤らみ始める空が,今朝は地獄にでもなってしまったかのように,赤黒い雲が渦巻いていた。
「まさか妖の仕業?...海!泰成!」
環那は部屋着のまま家を飛び出した。
街の市街地に着くと、そこには雲だけでなく,灰色の霧まで立ち込めていた。どうやらここが中心のようだ。
環那は意を決して霧の中に飛び込んだ。
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