第3話 芽吹寮の悲劇

「芽吹寮の悲劇だよ。」

そう言うと海の表情がこわばるのが分かった。



芽吹寮の悲劇

陰陽連付属星稜院初等部寮 通称芽吹寮で起きた妖による大量虐殺事件。当時寮で生活していた30人の寮生の中で生き残ったのは環那と泰成を含む3人だけだった。

「ま、まさかあんたらが当事者だったなんて...。全然知らなかった。」

「お前、知らなかったのか?」

「知るわけないでしょ!?私が引っ越したのは、あんたらが芽吹寮に入ってすぐだったんだから。環那がこっちに来た時だって理由も聞かなかったし。」

海の父親は優秀な陰陽師で、家族仲も決して悪くはなかったが、海が幼い頃、離婚している。

「でもさ、もう4年経ってるのに、なんで誘い続けてるの?」

海の問いかけに泰成は空を仰ぐようにして答える。   

「あいつはさ。陰陽師やってた時が1番楽しそうな顔してんだよ。それに俺さ,あいつが楽しそうにしてる顔好きだから。」

照れ臭そうに答える泰成に対して海はボソッと呟く。

「ふうん。そうやって人の気も知らないで。」

「ん?なんか言ったか?」

「別に。惚気は結構って言ったの。」

「べっ別に惚気じゃねえし。」

「それよりさ,」

そう言うと海は勢いよく坂道を駆け上がる。そして,振り向くとこう言った。

「あんたさ,一緒に帰る人いないんでしょ?一緒に帰ってあげようか?」

そう言う海の表情はいつものニヤニヤした表情に戻っていた。そんな海に安堵しつつも,泰成も坂道を駆け上がる。

「お前こそ,環那以外に帰るやついないんだろ?一緒に帰ってやるよ。」

「別に,今回は環那,先帰っちゃったんだもん。誰かさんのせいで。」

「お、お前なぁ。」

そんな他愛のない話をしながら,2人は自宅に続く道を歩いて行った。

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