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「じゃあ、まぁ、そろそろいくとするか」
江上の様式美がまた一つ補完されたところで、俺はみんなに声をかけた。
夜店の屋台は、タコ焼き、お好み焼き、焼きそば、焼きとうもろこし、綿あめ、りんご飴、かき氷といった、定番の食べ物系の合間に、射的、金魚すくい、ヨーヨー釣りといった、これまた定番のゲーム系があり、お面やサイリウムのような光るアクセサリーを持った子どもたちが親に連れられ、他にもたくさんの人々で賑わっていた。
そんな人の多い面倒なところにわざわざいって、何が楽しいの? と言われれば、やっぱり、この夏祭り独特の賑わい、雰囲気になんだかワクワクしてしまうからだろう。
よくあるように、タコ焼きでも買ってフーフーしたいところであるが、狭い通りで周りの人とぶつからずに食べ歩きするのは実際のところ難しい。座って食べれるところもないし、浴衣の彼女たちが気軽に腰を落ち着けられそうなところもない。
俺たちは紙袋に入ったベビーカステラをみんなでつまんだり、コップに入ったかき氷を先がスプーン状になったストローで食べたりしながら歩いた。
俺にしてみれば何度も見てきた光景であるが、江上は、あっちを見ながら、こっちを見ながら、珍しいものを見るようにして歩いている。もしかすると、あまりこういうところに来たことがないのかもしれない。
そんな江上がある屋台の前で、はたと立ち止まった。見ると、アイドルグッズやアニメや漫画のキャラクターなどの商品が立ち並ぶ、今どきにしては珍しいルーレットで景品がもらえるタイプの夜店だった。
通常は宝くじと呼ばれる、紐を引くと豪華景品の裏からしょぼい景品が取れるタイプの夜店が多いのだが、最近は、そのくじを全部引いても当たりが出なかったとか、そんな暴露ネタを動画サイトに投稿している猛者もいるので、テキ屋の方々も日々対策されているのかもしれない。ルーレットなら、いざとなれば特等や1等を出せるからね。
しかも、この夜店、サブカル的な品揃えから漂うディープな香りが、相当な情報強者であることが伺い知れる。そんな夜店のおっさんが、夜店の前に立ちすくむ江上に気がつくと。
「よう、そこの美人のお姉さん。よかったらどうだい? 一回練習で回してみてからでいいからさ?」
と、したり顔をして、誘いの声をかけてきた。
夜店の奥に飾ってある何かをじっと見つめていた江上は、意を決したかのように、
「これ、もし1等って書いてあるところに止まったら、あの景品がもらえるのね?」
そう言うと、某有名事務所の人気男性ユニットのポスター……の隣にあった、漫画(ある趣向の女子たちに人気の)のサイン入り原画を指差した。ほんとにぶれない奴である。
「あぁ、そうだよ。先ずはお試しで一回どうぞ〜。こいつは無料でいいよ」
嬉しそうに笑うおっさんからそう言われて、飛んで火に入るように夜店へと吸い寄せられていった江上が、真剣な面持ちで、まずはルーレットをつまみ、くるっとそれを回す。と、ルーレットは見事に1等のところで、ぴたっと止まった。
「…………!」
江上が無言でキュッとした顔になる。
「おぉ! お見事。さぁ、今度は本番だ。回してごらん。1回200円だよ」
言われるまま、江上はお金を払うと、今度はさっきよりもさらに真剣な表情でルーレットを回す。
ルーレットは、しばらく回転したあと……1等のところで止まりそうになったところで、すうっと通り過ぎ、ぎりぎりのところで、隣の5等のところに止まった。
「ざ~んね~ん! しかし惜しかったねぇ? ちょっともう一回練習してごらんよ、ほらほら」
おっさんはまだいけると思ったのか、もう一度、江上にチャレンジを促す。言われるままに、江上がもう一度回してみると、またしてもルーレットは1等のところで止まった。
「ほら! その調子。今の要領だよ、お姉さん! 今度はうまくやんなよ‼」
まんまと乗せられて、またお金を払う江上であるが、次もルーレットは惜しくも1等をもう少しといったところで通り過ぎてしまうと、またしても5等のところで止まってしまった。
「はい、残念だったね~。じゃぁこれ景品ね」
そう言って、おっさんはフルーツの絵の描かれた小さい箱に入った丸いガムの駄菓子を2つ、江上に渡した。
がっくり肩を落として戻ってきた江上は、
「ハァ……ついてないわ。ガムなんて食べないし、どうしようかしら」
と、ため息交じりにこぼす。
「なんなら、俺がもらってやるよ」
そう言って俺がニヤニヤした顔で手を出すと、
「なら、大まけして100円でいいわよ」
江上は少しむっとした表情で、駄菓子の箱を俺に手渡した。
「江上、あのルーレットはな、実はおっさんが足元で自由に好きな場所で止めることができる仕掛け入りのルーレットなんだよ。もっとも最近はもっとハイテクで遠隔とかで操作しているのかもしれないが。まぁ、こういうのも含めて楽しむのが、祭りの醍醐味なんだよ」
俺はおっさんには聞こえないようこっそりと、江上に真夏の夜の夢のネタバレをしてやる。そして、
「ほらよ」
そう言って、彼女に100円を差し出した。
「何これ?」
夜店の種明かしを聞かされ、驚いた顔の江上がさらに目をぱちくりさせる。
「黙って見て見ぬふりしてたお詫びだよ。悪かった」
俺の差し出した100円を見て、それから俺の顔を見た江上は、ふっと表情を緩める。
「冗談よ、本気にしないで。でも、いい勉強代になったわ。私こういうところ初めてだったから」
そうやって優しく笑った江上は年相応の可憐な16歳の少女に見えた。いつもは見せない素朴な一面に、俺は不覚にも少しドキッとしてしまう。
「恵くん、ちょっと……!」
「ん⁉ どうしたんだ……陽子?」
そのとき、陽子が俺のTシャツの裾を引っ張ってきた。俺は少し情けない声で返事し、反射的に腕をかばってしまった。パブロフの犬か俺は!
「あれ! あれって、奈菜穂ちゃんと山崎じゃない⁉」
陽子の指差すその先に、西と山崎、別高校組になった俺の幼馴染みと親友が2人で歩いていた。
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