27 公任

一週間後。

今日は公任の移籍日である。

「頭中将はまだか?」実朝は苛立たしげにつぶやいた。

「朱雀門迄来たら、朱衛殿に落ちる様仕掛けといたんだけどなぁ。ついでに警報も鳴るはずなんだよね」

「皆、聞け。帝の言葉を伝えるぞ。公任はレベルリオンの始末の最中。彼の任務に合流するようにとの命じゃ。もうじき朱衛殿に立ち寄るじゃろうて」

「不遜だ!我らは公任の麾下ではない!」

「実朝。機会を鑑みての人員補充じゃ。直属の名を軽んじてはならぬ」

「公任は伊里殿と同等と、そう言うのか?」

「将来麾下に入る事も考えろと言うておるのじゃ」

「しかし!移籍先を待たせるとは言語道断!重きに値せぬ!」

その時──。

「存外です。公任はずっとここにおりますよ」


──背後からの声。

実朝が大刀を抜くのは速かった。

衛門の袖口から鋭器が見える。

三人の未成年は振り返って驚愕し、二人の無位は同僚を背に足を進めた。

男の足元は未だ姿現さず。

現る上半身で、男は殊勝に礼を示した。

男を見た別当と鸕野はす、と目を細めた。

「其方、真に頭中将か?」

男は痩身だった。

「真ですとも」男は微笑んだ。

「情報官とあろう者が宮中で素顔を晒すとでも?」


「...理解した。じゃが疑念は晴れておらぬぞ。其方の身分を証明せよ」

「そうですね。では、先刻道真殿は帝より私の異能についてお聞きになりましたね?」

「その通りじゃ」

「私の異能をお見せします」言葉と共に男は再度姿を消した。

「『タキノオト』。自身の発し反射する全ての波動を消します。色も音も不可視光線も」音もなく文字が白板に書き足されていく。

用済みとなった筆記具は男の手を離れたか、落下した。

衛士達は言葉を失い、朱衛殿には無機物同士の音が響いた。彼らが次に男の声を聞いた時──

「気配に殺気ですか。無意味です、実朝殿」男の右手は実朝の左肩を撫でた。

茫然自失の実朝をよそに、男は大刀を取り上げ鞘に収めた。

「想定より披露に時がかかりましたね」

男は再び衛士達と向き合い、

「私は藤原公任。先日迄帝の命により、レベルリオン潜入捜査を遂行しておりましたのを、移籍の命を受けて参上した次第。私については以上です」有無を言わさず自己紹介を打ち切った。

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