25 神

禁中。

「帝!それは何故に」

「天照がそう申された。疑惑せよ道真。しかし神は全能。やってくれるな?」

「...は」




同刻、朱衛殿にて。

別当はいない。

衛士達も彼の居場所を知らない。

そして篁の異能空間で静かにひしめき合っている。

乎とこの国とを結ぶ通信。発言者は──篁。


「帝が異能者?仲麻呂さん、それ本当?」

『月読の言う事だ。昨夜は満月だったであろう?』

「異能の詳細は?」

『まぁそう急くな。聞けよ篁。──能力名「タカマノハラ」。なんでも日の出前に天照神と言葉を交わすとか』

「何それ、仲麻呂さんの異能にそっくり」

「あーストップストップ。質問があるのだけれど」

『その声は貫之殿。申されよ』

「一つ目。一般人はともかく、なぜ私達がそれを知らない?」

『国家機密のようだ。私も昨夜初めて知った。この様だと乎の皇帝も異能者かもしれんな』

「国家機密...それは世襲制なのかい?」

『その通り。三種の神器と共に受け継がれているそうだ』

「帝個人の問題では済まないと云う事か。成程。じゃあ二つ目。それを知っている人は?」

『どうも貴方の上司が怪しい』

「別当が?」

『知った上で、帝の補佐もしている』

「これは驚いた。後で別当に聞いておこう...あ」

「別当帰ってきたよ。異能展開を停止するけどいい?」

「と云う事だ。仲麻呂さん、また出直す事にするよ」

『承知。後程』


篁の停止合図と共に、殿舎に広がる空間に亀裂が入り、異能による国境を越えた交流は締め切られた。


「皆、聞いたかい?」

「まさか帝も異能者とは...」

貫之の呼び掛けに、皆上の空である。

「別当はなんで僕達に黙ってたんだろうね?」

「もっともな質問だけど篁君。私達朱衛府が公的組織にもかかわらず、地下に殿舎を構え、都人を避け、身内にさえも口外御法度。その理由を知らぬ君ではないだろう?仲麻呂さんの話だと、この国のトップは異能者らしいじゃあないか。一般人が九割九分を超えるこの国のだよ?」

そこまで言って貫之は目を伏せた。


「その秘密を知る者はゼロに近い程、時は平穏に過ぎるだろうね」

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