21 会議・万月視点

翌日。

昨夜は非番だった私も、緊急会議に強制召集された。

鎮火から眠り続けていた友則さんも、顔を出していた。

普段と比べて緩慢な動作ながら、迫る勢いで機器を操っている。




「皆、着席してくれ。」

別当と貫之さんが上座に着き、会議が始まった。

進行は貫之さんだ。

その背後に置かれた白板には、「大学寮火災 情報共有及ビ対策協議」と書かれていた。

事件の詳細が示された資料が配られる。


「まず日時。昨日霜月十日、午後一時半頃。放火犯はレベルリオンの在原業平。放火先は大学寮、更書殿。奴は三日前、ここにガス弾を仕掛けた。ガス弾は奴好みの導火線点火弾だった。着火すると、仕込まれた有毒ガスが撒き散らされる様になっていたそうだ。」

「そして、このガスによる中毒死で二人死亡、と。」

貫之さんの読み上げを継いで、さららさんが唇を噛みしめる。

「亡くなったのは、大江匡衡さんと円晴刻さん。二人共、更書殿のある紀伝道所属だった。大江さんは文章博士。その弟子が円さんで、文章生だったそうだ。」

「ねぇ、この人凄いよ。円さん、後ろ盾がいないのに最年少文章生だよ。それでいて次の得業生選抜、審査通過の最有力候補者。あれ定員二名なんだよね?それってつまり、首席ってこと?」

頓狂な声がしたと思ったら、隣で篁君が資料を前に目を丸くしていた。

そのまた隣で小式部ちゃんが冷静に続ける。

「あんまり賢いのも敵にされるわ。都合の悪い事に気付かれたから、口を封じたのかもしれないし。彼の事を快く思っていない者もいたかも。才能は時に動機になりうる。」

「そうだね...今回奴の目的は二人を消す事だったみたいだ。否、狙いは一人でもう一人は巻き込まれたのかもしれない。」

「ん?之兄、仮説はそれだけでなかったと?」

「実朝君お見事。私は初期にこう考えていたのだよ。書簡処分も動機になる、とね。更書殿に所蔵されていた品々は、それなりに機密性があった。殿舎自体も漆喰で塗り囲まれた珍しい造りで、機密保持に最適だったんじゃないかな。ともかく、入殿があれだけ厳重管理される更書殿に、消したい書類の一つや二つ、無い方がおかしいと思ってた。でも、友兄が今朝、検非違使のデータベースから拾ってきた情報で、この説は否定されるのさ。三日前、業平が更書殿に仕掛け、大江・円両氏の命を奪った爆弾は、どう考えても対人用だった。」

「黒幕は誰?レベルリオンに金を渡して、二人の殺害を依頼したのはどこのどいつよ?」

遂にさららさんが痺れを切らした。


情報共有が続く会議。

皆が何かを避けている。




レベルリオンが世に出て一年。

初めの一件は、ある政界重鎮の暗殺だった。

それまでに無い、新しい形態の異能犯罪集団。

その登場は余りに唐突で、血生臭かった。

そして一つの命が奪われた。

朱衛殿によるレベルリオン妨害作戦の展開は速かった。

レベルリオンが世に出て一年。

その間朱衛殿が妨害により阻止した事件数、二二件。

レベルリオンの作戦成功率は、初めの一件を除き、〇%。




今まで黙っていた別当が厳かに言った。

「昨日の大学寮火災。レベルリオンによる殺人を我等は阻止できんかった。重い事実じゃ。」


殺されてしまった。

朱衛殿の過失で人が二人も。


「皆の者、心せよ。依頼人を洗い出すのじゃ!」


鸕野は黒幕、と言った。

別当は依頼人、と言った。

そう、レベルリオンは営利集団なのだ。

銭を対価に手を汚す、これがレベルリオンの犯罪形態である。

この場合──悪は依頼人なのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る