19 御業・万月視点

「ヒサカタ。大学寮に豪雨を。」

神祇官の様な格好で友則さんは、空に手をかざし、呼び掛けた。

それを合図に急激に発達した雨雲は、みるみる内に大学寮上空を配下に収めてしまった。


私達朱衛殿衛士の今立っている所は、地上。朱雀門柱の足元。

空は勿論、太陽の王国である。

二条大路を挟んだ向こう側、大学寮は、見事に豪雨の餌食と化していた。

私はその境目と云う、目を丸くするに値する場所に身を置いていたのだった。




時が経ち、残るは小火程度、となった頃。

友則さんの見立てが幾分か楽観的であった事を、私は知った。

遂に、友則さんの体が限界を迎えたのである。

「友則さん?」

真っ先に気付いたのは多分私だ。

彼は、その身を門柱に預ける様にして崩れ落ちた。

すぐさま篁君の異能空間──つまり朱衛殿舎──に、貫之さんを伴って搬送された。

慌てる私の隣で、実朝さんがぼそっと「寝ているだけだ。」と言った。

友則さんは異能の制御に成功したらしい。


大学寮からは、神に感謝する関係者の声が聞こえていた。


ふと振り返ると、雨は上がっていて、上空には青空が戻っていた。



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