17 混乱

京、朱雀門の地下に位置する朱衛殿。

勿論上からは、逃げ惑う人々の雑踏が聞こえる──焦りを掻き立てる音だ。




この混乱に於いて真っ先に我を取り戻し、懸命に策を講じる者がいた。貫之である。

情報が欲しいとひとしきり呟いた後、彼はこう言った。

「友兄!検非違使の無線を抜いて欲しい。」

れっきとした盗聴である。しかしこれには事情があり...

兎も角、友則──電子工学の専門家である──はそれを受け、即座に繋いで見せた。

果たして無線には何が流れていたのか。


『こちら消1。出火元とみられる殿舎で二名の意識不明者を発見。救出しま...なっなんだこれは!皆、吸うなよ、有毒ガスの恐れがある!』

『避本より本部へ。例の二名を除く全員の避難が完了しました。』

『こちら本部。消1は無事か?状況を説明せよ!』

『こちら消1。先程の二名ですが...死亡が確認されました。恐らく殿舎内に立ち込めていた、ガスによる中毒死かと...


友則は回転椅子ごと体の向きを変え、年下の従兄弟を見詰めた。

「手遅れだ。」

衛士達は下を向いたまま何も言わなかった。

言えなかった。

先程とは打って変わって取り乱した様子の貫之。

他の同僚たちも彼に等しく、新人の東に至っては思考回路が凍結したかの様である。


その時、別当が動いた。

気付いたのは友則だけだった。

別当は、友則に目で何か合図して朱衛殿を出て行った。

その思惑を理解したのも勿論、友則だけだった。


火事は二つの命を散らして尚続く。

青い空は煙に塗り潰される。


──もう懲り懲りだ。

友則は視線を上げ、口を開いた。

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