9 蘊蓄・万月視点

「じゃあ、深窓の万月お姉ちゃんに説明するよ。」

嬉しそうに鼻歌を歌いながら、篁君は白板を引っ張ってきた。




篁君の蘊蓄講座

・レベルリオンについて

「まず、大前提として彼らも僕達と同じく、異能活動を行っているんだ。聞いての通り犯罪集団なんだけど、異能を使ってくるから中々手強い。それこそ検非違使が太刀打ちできない位。まぁ、そう云う異能犯の鎮圧の為に朱衛殿だって設置されたのだけれど。」

篁君はそこで一旦言葉を切り、何やら図を描き始めた。

上から、長、異能員、事務員・・・

「お姉ちゃん、これ何の図か分かる?」

「組織図?それも異能組織の。」

「正解。朱衛殿の構成もこれ。一般的な異能組織はみんな、これを採用してる。異能員に通信とか情報収集とかやらせたら、能力がもったいないから事務員を置く。これが普通。でも、レベルリオンは違う。」

「事務員がいないの?」

「そう。五人の異能力者がマルチタスクをこなす事で、レベルリオンは成立してる。少数精鋭のいい例だよ。で、次。レベルリオンが他の異能犯と大きく違う所。それは営利集団である事なんだ。目的がお金でもなく、復讐でもなく、依頼遂行。民間人から依頼を受けて、依頼人の代わりに手を汚し、報酬を得る。それがレベルリオンなんだ。この場合、一番悪いのは依頼人である訳だから、僕達朱衛殿に与えられたのは、レベルリオンを欺きながら依頼人を探し出し、検非違使に引き渡せ、という命令だけ。」

「なぜレベルリオンを潰さないの?依頼に応じる側がいる限り、依頼する側もいなくならないんじゃない?」

「それは、少人数とは言え、レベルリオンの有する異能が相当強いからなんだ。彼らに匹敵する鎮護組織が朱衛殿しか存在しない今、まともに刃を交えたら、こっちだって死体の十個や二十個じゃ済まない。今はレベルリオンを泳がせつつ、情報を得次第、作戦妨害するしか方法がないんだ・・・」

そこまで言って篁君は、目を伏せた。


・業平について

「業平は爆弾魔だ。これは断言できる。彼は確実に狂ってるよ。美学がどうのって、扱いが難しいニトロとか、リスクが高い短距離点火弾をわざわざ使うんだ。」

篁君は、それはもう忌々しそうに語った。

「業平の異能は「カラクレナイ」って言って、火玉を自在に扱うことができるんだ。この前それで、僕の異能空間に火災を起こされて・・・」

篁君は盛大な溜息をついた。

もうこの話題はよそう。


・爆弾について

「今回の爆弾は小型導火線点火ガス弾。忍者が使う「鳥の子」って言う火薬玉の煙が、毒ガスに置き換わったやつ。まさに業平のお気に入り。」

業平による空間火災が余程大変だったらしい。

篁君の口数がめっきり減ってしまった。

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