第34話 旅行計画
「ひと月ほど旅に出ようと思う」
船の部屋の中、ジーク兄様を招待してお茶をしていると、突然アダム様が爆弾宣言をした。
「えっ、旅行に行かれるのですか?」
一体どちらへ……。
いやそれよりもアダム様が不在の間、僕は一人になってしまう。
アダム様のいないあの部屋で僕は一人ぼっち。
それを思うととても心細い。
でも今は旅行に行っているアダム様に、心配を掛けないように頑張らなければ。
「大丈夫ですよ。アダム様がいらっしゃらない間、船の仕事も頑張ります。家でも大人しく待っていますから、心配なさらずに行ってきてください」
僕は無理やり笑顔を作り、動揺を隠すようにそう言った。
唖然とするように僕を見つめるアダム様。
その横で噴き出すように大笑いをするジーク兄様。
また僕は間違ったのかな?
「少将殿はとんでもない事を言うと思いましたが、マシュー君はその上を行きましたね」
未だに笑い続けるジーク兄様を尻目に、アダム様は僕の両手を握り締める。
「マシュー、今更お前を置いて俺が一人で旅行に行くと思っているのか?」
えーーーと?
「僕も…一緒?」
「当たり前だろう。俺一人で新婚旅行など行ける訳無いだろうが」
「しんこん………りょこ…う…」
途端に全身が熱くなる。
頭に血が集まり、頬が熱い。
「そ、そそ、そんな…新婚旅行って、僕がアダム様と一緒に新婚旅行に行くんですか?」
「新婚旅行に、妻以外の奴を連れて行く訳無いだろう」
「そ、それはそうかもしれないけれど、だってそれじゃあ旅行の最中、ずっとアダム様と二人きりで…」
「二人だけで行くのが新婚旅行の醍醐味だろう。違うのか?」
平気な顔をしてそうのたまうアダム様、そりゃぁ婚姻届けにサインをしたし、アダム様と一緒に暮らしているし、一緒にベッドで眠っているし、あんなこともしちゃっているから、本当に夫婦なんだろうけれど。
僕としてはとても恥ずかしい、ものすごく恥ずかしいし、死ぬほど恥ずかしいんだ。
面と向かってそう自覚しちゃうと、もう恥ずかしくてまともにアダム様の顔が見れない。
「それともマシューは俺と旅行に行きたくないのか?それならそれで、他のプランを……」
「いっ行きたいです!」
本当は行きたいです。
つい本心のまま勢いで返事をしてしまった。
「そうか…良かった」
握られたままの手を引かれ、僕はあっけなくアダム様の腕の中に引き込まれる。
「はいはい、本人の気持ちも確認できたところで、これは計画書です」
「ジーク、お前何を……」
「そろそろ言い出すだろうと思いまして。以前から予定していたプランです。もちろんフリータイムの行き先はご自由に決めていただいて結構ですが、一か月もまとまったお休みなんて取れる訳無いだろうこの野郎、です」
ジーク兄様もいたんだっけ…いつもながらの気配を消すのがうまいと言うか空気読み過ぎ、間合いを図り過ぎです。
「蜜月だって削られたんだ。俺は絶対に旅行に行く!」
「行かれてもいいですよ。但し連続での休暇は容認できません。ですので小分けし行って下さいね。どうせ行きたい場所はある程度想像が付きますからね。その計画書でもし異存が有りましたら計画し直しますので言って下さい」
渋々ながら、アダム様はテーブルに置かれた計画書を手に取る。
僕も横からのぞく見ると、色々と細かく計画されているようだった。
例えば僕の実家となったエイムズの家に挨拶に行く方法。
それは任務として行くカレイの港から軍と別行動をとり、そこから汽車でカシールのエイムズ家に3人で向かうとある。
そしてエイムズ家で1泊してから再び汽車に乗り、ガリーナまで行ってその港で船に合流し、その後再び任務に就く。
なかなかの強行軍だね。
「ちょっと待て、日程は任務の隙を縫っている様だが、旅行らしい旅行が無いじゃないか!大体にして3人とは何だ。大方残りの一人はジークの事だろうが、俺達の新婚旅行になぜおまえが一緒に行く」
「もちろん私の縁者の家には私が一緒に出向いた方がいろいろスムーズですからね。それに旅行の事ですがよくご覧下さい。半年後に一週間まとめた休みが入っていますよね、その時はお二人で好きな所に行ってください」
「それじゃぁ遅いんだよ」
「仕方ありませんね。あなたはそう言う立場の人ですから、それにあちこちから早くマシュー君を連れてこいと矢の催促です。早いとこ落ち着きたいのであれば、そちらを先に片づけた方がいいでしょう」
「お前、たまには計画など立てず思った通りの事させろよ」
「言ったでしょう、立場的に無理です」
アダム様はがっくりと肩を落としているけれど、ジーク兄様の言う事にも一理あると思います。
「すまないマシュー、俺はお前を色々な所に連れて行き思い出をたくさん作ってやりたかったが、暫くはそれも叶わないらしい。だがあと数年もすれば俺は軍を退役し、マシューと一緒に色々な所に行くと約束する」
その途端、ジーク兄様の笑顔の中に怒りが混じった。
「少将殿あと数年って、あなたそんなに早く引退するつもりですか?そんな事出来るとお思いですか?出来る訳有りませんよね。分かっていますよね」
「ふんっ、いつ引退するかなど俺の勝手だろう」
「ほうっ、やれる物ならやって見て下さい。挑戦なら受けて立ちますよ。」
二人の言葉の掛け合いがとても楽しそうで、やっぱり二人は仲がいいんだなと羨ましくなる。
「アダム様、僕はアダム様やジーク兄様たちといるだけで毎日がとても楽しくて、一日一日が僕にとって代えがたい思い出になっているんです。だから僕の為にご無理をなさらないで下さい。僕はアダム様の傍に居るだけで幸せなのですから」
「本当にマシュー君は少将殿にはもったいないほどの子ですね。さて、後1時間ほどで次の寄港地であるルネージュです。今日はこの港で燃料の補給やちょっとした点検が有りますので久しぶりに街に出て羽を伸ばせますよ」
僕はあまり町に出たいとは思わないけれど、アダム様が町を案内すると言って下さったのでちょっと楽しみです。
でも考えてみると、これってデートなんですね。
=========
_| ̄|○ コメディー……ですか?
次回、ほろりとするシリアスを予定しています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます