第31話 浅はかな者達 4
「ジークフリード様、ライザーが動きました。」
エリック様の件でライザー家から問い合わせが来たと、あらかじめ根回ししておいた警察から連絡が有った。
『やはり、エトアニルの発表が有るまで奴らは動きませんでしたか。
まあ多分そうなると思っていました。兄弟が失踪したと言うのに何を考えているやら……。人の情が欠けているあの人達には、私達もそれを掛ける必要はありません。こちらも心置きなくやらせてもらいましょう。最初の計画通り進めて下さい』
「承知しました。かなり面倒な人物のようなので私も心して当たらせていただきます」
そう心して楽しませてもらいますよ。
「お待たせしました。私は失踪者調査課のミカエル・ガルシアと申します。」
ライザー家を訪れた私は挨拶と共に名刺を差し出した。
実際にそんな課が有るのかどうかは知らないが、尤もらしい課をでっち上げれば事は足りる。
椅子をすすめられ腰かけると、すかさず一人の使用人がコーヒーをテーブルに置き軽く会釈をする。
あぁ、ご苦労さま。
実はこいつとは顔なじみなんだ。
3カ月ほど前は同じ部署で机を並べていたのだから。
確か内々の指令でどこかに潜入捜査に入ったと聞いていたが、此処に来ていたのか。
「で、エリックは見つかったのですか?」
「いえ、電話でも申し上げましたが、エリック君を発見した訳では有りません。ただ同じ場所で複数の目撃情報が寄せられたので、多分本人ではないかと目星をつけ、これから事実確認を行おうと思っている次第です」
「それは一体どれぐらいの時間が掛かるのです」
「そうですね、他の捜索依頼もありますから順次…となっております。しかしエリック君の件は目撃情報も有る事から他の方より優先される筈です」
「だからいつエリックは見つかるんだ!」
「いえ、そう仰られても、まだその人がエリック君と判明したわけでは有りませんし、人違いで有ったならまた一からの調査となります。先ほど言いました通りエリック君より前に捜索願が出されている方もかなりいらっしゃいますし、いつ見つかるなど断定はできません」
「俺達はそんなには待てないんだ!」
「そう仰られましても……。」
私が困った顔をし、言葉を切ると、ルクスさんは顔付をがらりと変えた。
「いや、すまない。実はこちらにもいろいろ事情が有るんだ。大事な弟だし失踪してから大分経つ。心配でならないのだよ。どうか優先的に調査していただけないだろうか」
なるほど今度は情に訴えるつもりか。
「申し訳ございません。お役所仕事は融通が利かないと言う評判通りでして、確かに大切なご家族が行方不明になり心配なさっている気持ちは良く分かります。ですが失踪者を抱えているお宅は皆様全て同じ気持ち、大変申し訳ございませんがライザー様だけ優先させると言う訳にはいかないのです。
しかし、それほどご心配でしたら、本当は規則違反ですが特別に今までに分かった情報をお教えいたしましょうか?ご自分達で確認された方が時間の節約になると思います。しかしこれだけは言っておきたいのですが、私がお教えした人物がエリック君と決まった訳では有りません。もし人違いでも気を落とさないで下さい」
「しかし、確認に行ったはいいが、もし人違いだったら無駄足では無いか!」
「では、私共が動いて、確認するまでお待ちいただくしか有りませんね」
「だから、そんなに待てないと言っているだろう」
いくら言っても堂々めぐり、本当に利己主義な奴だ。
「仕方が有りません、これ以上ここに居ても時間の無駄のようですね。とにかく現在エリック君らしい少年の情報は掴んでいます。調査は順番を守り続行します。調査の進展がありましたらお知らし致しますのでそれまでお待ちください」
そして椅子から立ち上がろうとした私を、慌てたルクスが引き戻す。
「ま、待て、そう短気にならなくてもいいだろう。分かった話を聞こう。そして我々がエリックを探しに行く」
そうそう、最初から大人しくそう言っていればいいものを。
「しかし…これは規定違反ですから、やはりお教えする訳には………」
「ふん、さっさと教えるんだ!さもなければ役所の上司に訴えるぞ」
いえいえこれは上司の考えた筋書きであり、訴えたところで私は褒められるだけですが。
大体にしてでっち上げの役職に上司などいませんし。
いや、ジークフリード様が直属の上司であり、その上には少将殿がいらっしゃいますね。
などと、自分で自分に突っ込みを入れて楽しんだりして。
とにかく私は尤もらしくブリーフケースを開いた。
「本当に詳しい事はお教えできません(建前だけれど)ただ最も有力な情報は、レイシャル半島の中ほどの小さな村に、エリックと名乗る少年がいる、その特徴もエリック君によく似ていると報告が有りましたので、その方を対象に捜査するところでした」
「レイシャル半島か…」
「はい。その少年は6月末あたりからこの村で見かけるようになったそうです。最初は一人で、村の小さな店で住み込みで働いていたようですが、最近ではご婦人と一緒に安アパートで暮らしていらっしゃるようです」
「女と一緒だと?」
「はい。その女性は年の頃はおおよそ40代ほどの方で、名前は確かクロエと呼ばれていたそうです」
「クロエだと!」
突然叫ぶような声がした。
見るとこの家の当主だろう男が、やつれた風貌をしてこちらを凝視していた。
「エリックと一緒にクロエがそこにいるのか!」
かかった!その言葉を聞いた私は心の中でほくそ笑んだ。
「いえ、これはまだ単なる情報です、確定した訳では有りません。」
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