第27話 影と言う名の護衛


私は影と呼ばれる存在です。

今日ジークフリード様から、少将様の運命の番であるマシュー様の護衛に付くよう命を受けました。

出来れば少将様本人が常に傍に付いていたいらしいが、やはり仕事が忙しいので、つい目を離した隙にマシュー様が何を仕出かすか分からない。

なので護衛を頼みたいとの事でした。

しかしその条件が、本人が無自覚の上に、特別扱いを嫌がるらしく、出来ればマシュー様に悟られず、目立たぬよう護衛に付いてやってほしいとの事。

私は今まで密偵などの仕事も経験済みなので、お任せ下さいとそれを請け負いました。


仕事内容はいたってシンプルです。

終始マシュー様に見つからないよう陰に隠れ、様子を伺い、彼に危険が迫ればそれを回避させる事。

何も問題は有りません。

ただ相手はまだ新婚なのでTPOを考えて行動してほしいとの事。

はい、少将殿の噂は既に聞き及んでおります。

新婚中の取り扱いは私にだって分かりますよ。

実は私も結婚1年目、仕事の都合で相手と離れている事も多いですが、まだまだ熱々ですからね。



そして今日も私はマシュー様の目に入らない程度の距離を取り、さりげなく仕事をするふりをします。

ふりと言うのは、実際に仕事をするといざと言う時に動けない場合が有るからです。

その事について、ジークフリード様にはしっかり許可を取ってあります。


「それがあなたの任務ですから構いません。」


ありがとうございます。

しかし、ただ見ているだけと言うのも退屈なものです。

まあ忍耐も仕事の内と諦めましょう。


しかし少将様の溺愛っぷりは感心する物が有ります。

それに気が付かないとはマシュー様も大したものですが、私はマシュー様の気持ちに共感できる所が有ります。

トイレぐらいは一人で行かせてやってほしいと思います……。



今日は私が護衛に付くようになって4日目です。

私はいつものように、陰に隠れマシュー様のガードをしていました。

最近はマシュー様の希望が勝ったのか、時々一人で行動されるようになりました。

いつもでしたらほとんど私の出る幕など無かったのですが、これでようやく仕事らしい仕事が出来ます。


そして昼近くとなり、マシュー様が少将殿に昼食を取りに行って来ると仰ってます。

しかし少将様はその言葉に気づかない様子。

ジークフリード様も席を外しているようです。

それに気が付いたマシュー様は、どうやらそのままで食事を取りに行くようです。

困りました。

一人で行動する時は、必ず行き先を断ってから行く事を約束されていましたよね。

駄目です。了承も得ずに行ったら後で後悔するのはマシュー様です。

しかし私は影です。

表立って行動したり、マシュー様の目に付く所に出る訳にはいきません。

ましてや直接言葉を交わし、忠告する事など有り得ません。

………仕方ありません、マシュー様が行動するなら私はその後を付いて行くしか無いですね。



マシュー様は無事食堂に到着し、今は少将様の昼食を受け取ろうとしています。

が、どうも様子がおかしいです。

そうでした、少将様の分とマシュー様の分で二人分でしたね。一人で運ぶなど無理でしょう。

では、私がお手伝いをしてお運びしま………、ダメでした。

たとえ私が通りすがりの者です、お手伝いしましょうと言っても、私の存在がマシュー様に認識されてしまいます。

そうなると、この先私が秘密裏にマシュー様を見守る事に支障をきたすかもしれません。

どうしよう……。

そう思っていると、食堂の職員が、手を貸してくれるようです。

良かったですね。

………ではありません!

駄目です!そんなに若い雄など、近くに寄らせてはいけません!

そんなに仲良く話しかけられてはいけません!

嬉しそうに答えてもいけません!

少将殿にばれたらどうなるのか分かりませんよ!

くわばら、くわばら……。

結局はジークフリード様から軽いお説教を受け、少将様の待つ部屋の中に入られましたけれど、その後どうなったのか想像するのが怖いです……。

雄の嫉妬がどういうものか分かっているだけに気の毒で……。



「ジークフリード様、私には無理です。

影として続けていく自信が有りません。」


「どうしてですか?」


「影としてマシュー様を見守るだけでは、お守りすることが出来ません。

危険を回避する事も出来ませんし、これでは適切な対処できません。」


ジークフリード様はしばらく考えていました。


「分かりました。あなたの任を解きましょう。」


えっ?…首…ですか?


「あなたには、これからマシュー君の教師になっていただきましょう。」


「教師…ですか?」


「はい、マシュー君に海軍での最低限の知識を教えていただきます。それならばいつも一緒に居てもおかしい事はありませんね。つまりは堂々とガードが出来る訳です。そうだ、ついでに常識も教えてあげていただけますか?」


常識ですか??


「あなたは既に既婚者と聞きました。マシュー君は若すぎるせいか、妻としての自覚が足りていない気がします。ですからその辺もサラっと助言してほしいのですよ」


確かにマシュー様はその辺の自覚が足りない様な気がします。


「しかし私に教師の経験など有りません、それでもよろしいのですか?」


「ええ、それでもあなたは専門知識を得る為に、海軍学校に通われましたよね。その程度の知識で結構なので、それを口実にマシュー君に付いていただきたい」


「その程度でいいのならお引き受けします。私もその方がガードに付きやすいですから。しかし、少将様の方は大丈夫でしょうか?その…教師となれば、それなりに頻繁に話したり始終一緒にいる事になります。あの…少将様のやきもちなどが……。」


「マシュー君の身の安全の為なら仕方のない事でしょう。少将殿のほうは私が丸め込みますので、あなたは心配しなくても大丈夫です」


少将様の片腕と言われるジークフリード様の事です。

安心して任せても大丈夫でしょう。


「分かりました。よろしくお願いします」


よかった、これで堂々とマシュー様をお守りできます。




私は影です。しかし、明日からはマシュー様の教師となるディック・ローリングです。

まぁ、明日無事に会えればの話ですけど……。

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