第25話 ペナルティー
僕が船に乗るようになって数日、
アダム様はようやく本腰を入れて仕事をする気になってくれた。
しかし相変わらず僕を傍から放す事はしない。
僕もアダム様の傍から離れたく無かったから丁度いいと思っていた。
しかしそう言っても、僕が少しでも離れるとアダム様は仕事を中断し探し回ろうとするので困る時もある。
確かにそれは僕の事を気に掛け、愛されてるんだなぁと思いはするが、空気は読んでほしい。
アダム様の仕事や僕に与えられた仕事に支障が出る時も有るし、何より僕は一人で用を足しに行く事すら出来ません!
「アダム様、これでは仕事に支障が出ますし、僕も仕事をしたいのです。
その為にお傍を離れる許可をください」
今日も僕はアダム様に直談判をする。
「しかし、マシュー……。」
「大丈夫です。お傍を離れる時は、必ず断ってから行きます。それにほら。」
僕は、高い詰襟を引き、首に付けたチョーカーを見せる。
僕はすでにアダム様の物だからうなじの守りは必要無いけれど、これはアダム様の特注品だ。
チョーカーの中央の石にはGPSなどの機能が仕込んで有るらしい。
「アダム様が下さったこれが有りますから、絶対に大丈夫ですよ。」
「う、うむ。仕方ないか…」
アダム様はようやく白旗を上げてくれたみたいだ。
「では、俺から離れる時は必ず断ってから行く事、周りには十分気を付け決して隙を見せない事。それと帰りが遅いようなら俺はお前をすぐに探しに行くからな。」
「分りました」
そう言って僕はにっこり笑った。
それから僕は自発的に自分のできる仕事を探した。
最初はアダム様の手伝いぐらいだったけれど、今は傍使い程度なら熟せるようになっていた。
自ら判断し、アダム様の必要とされるものを予め揃えたり、ちょっとした用事を言い使ったり。
本当はもっと役に立ちたいけれど、何も知らない僕には今はこれが精いっぱい。
いつかきっとジーク兄様みたいにアダム様の片腕となり役に立ちたい。
「マシューお前がそんな下働きなどしなくてもいい」
「だめですよアダム様、そんな事を言ったら、今までアダム様の為にこの仕事をしていた方に失礼です」
僕がそう言えば、渋々ながらアダム様は許してくれた。
アダム様も次第に慣れて来たのか、
今は自分の仕事に集中できるようになったみたいだ。
良かった。
さて、そろそろお昼の時間なるな。
今日はルイスがいないから、僕が食事の用意をしなくちゃ。
「アダム様、僕、食堂まで食事を取りに行って来ますね。」
一応声をかけたけれど、アダム様は他の方と打ち合わせをしているようで、僕の声に気が付かないみたいだ。
ジーク兄様は……席を外しているみたいだな。
でも、もう時間も迫っているし、最近では大概の事はさせてもらっている。
一人で行っても大丈夫だよね。
そして僕はアダム様のお仕事の邪魔をしないように、そっとキャビンを出た。
食堂に近づくにつれ、香ばしい匂いがしてくる。
今日のメインは肉料理かな?
僕はダイニングルームのプレートを確認してから中に入った。
昼前のせいか、中はまだ人影が少ない。
「すいません、アダ…、少将様のお昼をいただきに来ました。」
「はーい。って、お前一人か?たしか少将殿と番様の分で、二人前って聞いてるぞ。おまえ一人で大丈夫か?」
そうか、自分の分も運ばなくてはいけないんだっけ。
ん~どうしよう…。
「あの、少将様の分だけでいいです」
別に僕はお腹が空いていないし、食べなくても大丈夫だ。
「バカ言うな!お前俺を殺す気か?おや、お前見ない顔だな。新入りか?
まあ、俺もこの船に配属されたばかりだから偉そうな事は言えないけどさ。
えーと、少将殿と、番様の食事となると、二人分でこれだけど、一人じゃ……無理だよな」
トレーの上には、かなりの量の食事が乗っている、それが二つ。
無理です……。
「しょうがねぇなぁ、今日は俺様が手伝ってやるから、明日は二人で来いよ」
「すいません。ありがとうございます」
「そうだ、俺はセインってんだ。お前は?」
「あ、僕はマシューです。よろしくお願いします」
「おうっ。こっちこそよろしくな」
そう言って僕の肩をパンッと叩いた。
何かいいな、こういうのって。今まで無かった気がする。
「お前、生っちょろいから一人分だけでも運べるか心配だな、大丈夫かよ」
「頑張ります!」
そして僕たちは、それぞれトレーを持ってアダム様の部屋へと向かう。
道すがらセインさんと色々と話をした。
「へー、マシューはカシールの出身なんだ。俺はハブディックだ。確かカシールからなら4つほど離れていたな。近いじゃん。」
「そ、そうでしたっけ?ごめんなさい、僕よく覚えてなくて。」
「まぁ、俺も地理は苦手だけどな」
僕は自分の事をセインさんに質問されないかビクビクしていたけれど、幸い聞かれる事は無かった。
セインさんは道々、この船の事を教えてくれた。
「この階段を行くと抜け道なんだ、本当は関係者以外通ってはいけないって言われているけれどね。それからあのドアはこの船に数少ない女子トイレ。むやみに近づかない方がいい、怖~いおばさんが難癖付けるからな」
後は今度の金曜日のBメニューは壊滅的だとか、毎週月曜のAメニューの担当は腕がいいから、ぜひ食べるべきだとか、色々な情報を仕入れた。
「そう言えば、お前飯はどうするんだ?食堂に喰いに来るのか?」
「いえ、……僕は持ち場からあまり離れられないので、そちらで食べる事になっています」
「そっか。まぁ、たまには食堂に喰いに来いよ。サービスしてやるからさ」
「ありがとうございます。ぜひ!」
嬉しいな。友達になってくれないかな。
「なあ、今度下船した時、一緒に遊びに行かないか?」
「えっ、う、嬉しいです!でも、僕入ったばかりで覚える事が沢山有って、いつお休みになるか分からなくて……。」
「そっか。それなら俺はいつもあの食堂にいるからさ、暇になったら声かけてくれよ」
「ありがとうございます。その時はまたお話させてもらえると嬉しいです」
そう言ってにっこり笑う。
「お、おう。」
セインさんも快く笑い返してくれた。
本当に嬉しい。
アダム様の部屋に近づくと、そのドアの前に誰かが立っていた。
ジーク兄様だ。
セインさんもそれに気が付いたようでジーク兄様に丁寧に頭を下げた。
「少将様と番様のお食事をお持ちしました」
「……しました」
僕の背筋に冷たい物が流れる。
だってそのジーク兄様の目、絶対に怒っていますよね?
「ご苦労様です。君、それを預かりましょう。マシュー君はそのまま中に運んで下さい」
「ありがとうございます。じゃあなマシュー、連絡を待っているから」
「はいセインさん、ありがとうございました」
そう言って彼は引き返していった。
「仲良くなられたんですか?」
「はい!」
僕は嬉しくて、笑いながらそう答えた。
何故かジーク兄様はため息をついている、一体どうしてなんだろう。
「マシュー君、約束を破りましたね。」
「え?」
「あなたは、ちゃんと断ってから出かけましたか?」
あっ、え…と。
「一応声は掛けたんですが、アダム様は忙しそうだったので、邪魔してはいけないと思って……。」
「ペナルティですよ。
あのエロ狼を引き止めるのは大変だったんですからね。あなたが何処に居るのかはすぐ分かったのですが、それでも納得しない彼を説き伏せ、閉じ込めるのは本当に大変だったんです。部屋に戻る時は覚悟して入って下さい」
え、部屋に入るのに覚悟っているんですか?
「で、でもご飯は……」
「私が預かりましょう」
そう言って僕の持っていたトレーまで、ひょいっと片手で受け取った。
見かけによらず、ジーク兄様って力が有るんだ。
「どうぞお入りください。くれぐれもお気を付けて」
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