第23話 確認
「マシュー君、運命の番は共に引かれ、愛し合い、求めあう。そして一緒にいるだけでお互いの能力を高め合うのです。ご存じでしたか?」
「何となく…」
僕はアダム様の力になれるのだろうか。
「つまりあなたが少将殿の傍に居て下さるだけで、あの方は、あなたにいいところを見せようと、サボらずまじめに仕事をする筈です。」
ちがぁう!それは能力を高めるのとは言いません。
「ですから、あなたがいつも少将殿の傍に居ていただいた方が、こちらとしても都合がいいのです。」
「はぁ……」
「あなた達は誰にも邪魔をする事が許されない運命の番。それを利用するようでマシュー君には大変失礼な事をしていると思っています。しかしこうでもしなければあの少将殿はまじめに仕事をしてくれないのですよ。」
何をしているんですアダム様……。
本当は外洋の警備や遠方での会議などの仕事が有るのに、アダム様はそれに応じず定時で上がると言う我が儘この上ない勤務態度だったらしい。
「まあ本来であれば蜜月と言う言葉通り、最低でも一月間はハネムーン期間として休まれるのが普通ですが、それを無理やり取り上げた私にも責任が有りますから……」
「ジーク兄様のせいでは有りません、結局僕が原因でアダム様は遠くに行くのを拒んだのでしょう?本当にごめんなさい」
「ふふっ、謝り合いをしていても仕方ないですね。元はと言えば要領よく仕事をこなせない少将殿のせいなのですから。という訳でマシュー君を巻き込む形になってしまいましたね」
「いえいえ、僕なんかでアダム様の役に立てるなら何でもします。」
つい流れでそう言ってしまった。
いえ、決して協力するのが嫌という訳じゃ無いけれど、本当に僕がアダム様の力になれるなんて思っていないから。
「マシュー君ならそう言っていただけると思っていましたよ。ちゃんと言質取りましたからね」
い、いやだな…ジーク兄様の笑顔って時々怖いんですけれど。
「まあ一連の流れでマシュー君を海軍に取り込め…いえ来ていただけると思っていましたので準備はすでに始めていたのです」
既に始めていた……?
まあジーク兄様の事だから先を読むことは得意だろう。
きっと僕が思う以前より準備に手を回していたんだと思う。
「そう言えばマシュー君、答えを聞きそびれていました。あなたは以前、海が怖いと言っていましねが、今はどうですか?」
「そう言えば…。ええ、以前より良くなりました。最近はアダム様も海に出られるようになったでしょ?そんな日は、海を見ているほうが落ち着くんです。」
「なるほど、では問題は有りませんね」
「でも…僕はアダム様の傍に付いているだけなんて嫌です。ジーク兄様、僕にもできそうな仕事は有りますか?」
「ええ、有る事は有りますが、あなたがあのエロ狼から離れる事は少しばかり問題が………いえ、大丈夫でしょう。あの人にももう少し忍耐力を鍛えていただかなくては」
よく分からないけれど、ジーク兄様には何か考えが有るのだろう。
「あなたが乗船すればようやく外洋警備に行けます。その為の船の施設などを、今改造中なんです。船は休ませる訳にもいきませんから航行中も工事を平行して行っています」
「大変なんですね」
「まああの方の我儘に比べれば楽な物ですよ」
ジーク兄様がこんなに溢すなど、アダム様どれ程無茶な事を言っていたんだ?
「なんか、あの……ごめんなさい」
「なぜマシュー君が謝るんですか?」
「あの、何となく……」
「あなたに謝っていただく事はありませんよ。謝るのはあのエロ狼ですから。それよりマシュー君、船に乗るようになったら口実を付けて、色々な所に行きましょうね。」
部屋の中にずっといたので旅行に行けるなど夢のようだけれど、でも、僕の為に軍を動かしてもいいのだろうか………。
「マシュー、今日ジークが来ただろう」
帰宅されたアダム様が開口一番そう言った。
「はい、午前中にいらっしゃったので昼食もご一緒しました」
「なんだと?」
なぜかアダム様の機嫌が悪そうだ。
一体どうしたんだろう。
「あいつ、出航直前まで船内にいたくせに、いざ出航して見ればどこにもいない。他の奴に聞いてみれば、今日は内勤だなんてぬかしやがる。絶対に俺を出し抜いてマシューに会いに行ったと思ったが、図星だったな」
あぁなるほど、あれはあまりアダム様に聞かせたく無い話だったんだ。
「アダム様は毎日僕と会っているでしょう?」
「だが嫌なんだ、相手が例えジークだとしてもお前を他の奴と二人きりになどしたくない」
「メイベルさんもいましたよ?」
「それでも嫌なんだ」
まるで駄々っ子だな……。
これは何よりも先に話をした方がいいだろう。
僕はまだ身支度も整えないままのアダム様を、僕達の部屋に引っ張っていった。
「アダム様、そんな事を言ってはダメですよ。ジーク兄様は僕達の事をちゃんと考えて下さっています。」
話始めてすぐ、メイベルさんがお茶とちょっと摘まめる物を持って来てくれて、すぐに出て行った。
メイベルさんもジーク兄様同様、良く出来る人だ。
「ジーク兄様は、僕の海に対する気持ちを確認しに来てくれたんです。まだ海は怖いですかって。」
アダム様はその話をじっと聞いていて、何の反応もしない。
きっと僕の話の続きが聞きたいのだろう。
「だから僕はもう大丈夫ですと答えたんです。反ってアダム様がいる海が好きだと言いました」
「それは本当か?」
「えぇ本当です。僕はこの海の向こうにアダム様がいると思うと、いつも繋がっているようで嬉しいんです」
「そうか……」
薄っすらとアダム様が笑う。
良かった、喜んでもらえたんだ。
「今船の中の改造工事をしているのでしょう?ジーク兄様が言ってました」
「あぁ、俺も私室を追い出され今は仮部屋に押し込まれているよ」
「そうなんですか。早く戻れるといいですね」
「マシューが正式に乗船するまでには終わらせると言っていた」
「そっか…僕も早く船に乗れればいいな、そうすればいつもアダム様と一緒にいれるから……」
僕の言葉を聞いたアダム様が、いきなり席を立ち、駆け寄る様にし僕をギュッと抱きしめる。
「マシュー可愛い!天使のようだ。愛しているよ」
そう言いいつもの様にキスをしてくれる。
「アダム様…僕も好き…愛しています」
あぁ、やはりここがとても好き。
アダム様の腕の中が一番安心できる。
まるで酔うように身を預け、アダム様にしがみ付く。
そしてふと現実が蘇る。
ちょっと待てよ、アダム様はまだ仕事から帰られたばかりでお食事もまだとっていない。
これはダメだろう。
「ア…ダム様…ダメ……お腹空いているでしょ?」
僕はアダム様の背をポンポンと叩いて抗議するけれど、そんなの通用しない。
「大丈夫だ、お前を食うから」
「アダム様………」
その時、扉がノックされた。
いつもより強めに。
「ご主人様、お食事の用意が整っております。マシュー様もご主人様の事を待っていらしたので、お腹が空いている筈です。お早めに食堂にお越しください」
メイベルさんは、やっぱり出来る人だった。
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