第19話 蜜月 やっと突入

「暑苦しい。さすが蜜月ですね」


「分っているなら諦めるんだな、嫌なら降りろ」


帰りの馬車の中、僕は相変わらず人目も憚らず、スキンシップの激しいアダム様の膝の上にいた。

昨夜よりは少し控え目なのが助かるけど……。

でも恥ずかしいのは同じ、とてもじゃないけどジーク兄様の顔が見れない。


「私もそうしたいところですがね、この後スミス先生の話があります、私もマシュー君の様子を把握しておきたいと思いますからご一緒しますよ。何より大事な従兄弟の事ですからね。あなたに任せっ切りにするとどうなる事やら」


スミス先生との約束時間直前に帰宅した僕は、メイベルさんの手を借り慌てて体裁を整えた。

誰のせいとは言わないけれど、髪はクシャクシャ、あちこちだらしなくはだけていて、とても人に会うような恰好じゃないから。

あぁどうしよう、僕はきっとジーク兄様に呆れられてしまった………。



「マシュー君のタイプはツェール型でした。適した抑制剤はこちらです。万能型と違い、体への負担も少なく効果も優れています。発症してすぐに服薬すれば、およそ15分で効果が表れるでしょう。なお個人差も有りますので、1回のヒートで複数回服用しなければならない人もいます。ご注意ください。」


「ヒートの周期は一定だと聞きましたが?」


「一般的にはそう言われますね。しかしヒート初期は安定しない事が多いのですよ。まあ1年ほどすればほぼ安定しますね。しかし周期と言っても、やはり個人差があます。薬を服用しない状態で言えば20日ごとに2日間、40日ごとに1週間続くなど、タイプも違います。自分の状態が把握できるまでは、常に薬を持ち歩いた方が賢明でしょう。それとこれは避妊薬です。」


見れば、先生が鞄から一つの瓶を取り出していた。


「もしそれを望まないのでしたらお飲みください。まあ授かりものですからね。飲まなければすぐできると言う訳では有りません。出来れば行為の30分ほど前に飲んでいただければ100%の効果を発揮しますが、まあ後でもそれなりに効きますので大丈夫でしょう。副作用は微小なので常用しても構いません」


そして小さな白い錠剤の入った瓶を5つほどテーブルの上に並べた。


「それは俺が預かる。いいなマシュー」


「はい、アダム様」


「さて、他に質問は有りますか?」


鞄を締めながら先生がそう仰る。

僕はどうしても聞きたくて先生に話しかけた。


「あの…ヒートが起きた場合、薬を飲めばすぐに症状は治まるんですよね?」


「そうですね。説明したとおり、薬の種類や発症してから服用するまでの時間でタイムラグは有りますが、薬を飲めばヒートの発作は収まりますよ。」


良かった…。あんな姿をアダム様に晒したくないもの。


「安定するまではその度様子を知らせて下さい。薬が切れた場合、すぐにご連絡くだされば診察がてらすぐにお持ちします」


「分かりました。よろしくお願いします」


そう言いジーク兄様が軽く頭を下げるけれど、僕の為にわざわざ来ていただくなんて申し訳ないから、必要になったら僕の方から病院に行こう。

そう思ったけれど、結局それからも僕から薬を貰いに行く事は一度も無かった。


「そうそう、体はほぼ回復したようですがまだ安心はできません、くれぐれも無理はなさらないように」


そう言い残し先生は帰って行かれた。


「それでは私も先生をお送りしがてら帰りますか。少将殿、これから数日間蜜月ですが、先生の言い付けはちゃんと守って下さいね」


「そんな事より、蜜月と分かってるなら月単位で休暇をよこせよ」





台風一過、二人切りになった家はしんと静まり返っている。

メイベルさんも夕食の支度をして、早々に帰っていった。


「やっと二人切りだマシュー」


変わらず僕を膝の上に乗せたまま、飛び切りの笑顔で微笑んでくれる。

窓の外、飾り格子の向こうは夕日の赤で海がキラキラ輝いてとても綺麗だ。

僕はアダム様の胸に凭れかかり、じっとそれを見ていた。

ここは僕のいてもいい場所。

もうどこにも行かなくてもいい、帰らなくてもいいんだ。

そんな感情が湧き上がって来る。


「アダム様…すき」


口から零れ落ちたのは心の奥底から芽吹いた、永久に枯れる事の無い気持ち。


「マシュー俺の半身、お前は俺の中に灯る唯一の輝き、天使であり神。そうだな、水であり空気だ」


「えっと……僕はアダム様にとって水や空気、そんな感じでいいんですよね?」


神までは有り得ないよって思ったけれど、水や空気ぐらいなら納得できる。


「こらこらこらこら。いや、俺の表現が乏しすぎたか?お前の事を空気や水と言ったのはだな、それは俺が生きる為に必要な物だからだ。だからそれ同様、いやそれ以上に俺はマシューを渇望する」


え~あれ?やっぱり僕の理解能力がどこかに行っている。


「俺の言っている意味が分からないか?」


「あまり………」


「そうか、言葉にしてもあまり伝わらないか。ならば………」


アダム様は僕をひょいと抱き上げると奥へと歩き出す。


「あまり度が過ぎるとジークがうるさいし、先生にも叱られてしまうからな。出来る限り我慢はする。だがなマシュー、俺達はすでに夫婦であり今は蜜月だ。おまけに時間をかなり無駄にしている、多少の事は許してくれ。」


ニッコリ笑ってそう言うけれど、何故か冷たい物が背筋を撫でていった。






「可哀そうに、こんなに憔悴して。」


どの口がそれを言いますか!?

でも僕は言い返す事すらできず、ベッドに転がっていた。

あれから一体どれほどの時間が経ったんだろう。

あの後アダム様はとても優しく僕を愛してくれた。

例えあんな事やこんな事をして、それから僕が恥ずかしいと言っても何度も愛の言葉を強要されたとしても。

まあ嘘では無いからやましい気持ちなど無いし、アダム様からもたくさん言葉をかけられたからお相子みたいな気がするし……。

でも途中で僕が二度目の発作を起こしたらしい。

その時アダム様のタガが外れたみたいで、アダム様は僕に薬を飲ませるのを忘れたと言っていた。

おかげで僕はメチャクチャ恥ずかしい言葉や姿をアダム様に晒してしまった……。

もうアダム様に顔向けできない………。



「マシュー、少し食べた方がいい。」


さらりとガウンを着て、トレーを持ち近づいてくるアダム様は、まるで輝きを纏うアポロンのようだ。


「さぁマシュー口を開けて」


僕が見とれている間にいつの間にか隣に座っていたアダム様が、僕を抱き起しスッとスプーンを差し出してくる。

確かに腕を上げるのも億劫だから、物理的には食べさせてもらえるのは助かるのだけれど……。


「むっ無理です!」




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最近自分が何を書いているのか分からない…。シリアスのつもりだったんですが、コメディーですか?エロ狼が残念過ぎる……。orz

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