第20話 テスト
あ~んなど恥ずかしすぎる!
薬を飲ませてもらえなかった僕のヒートもほぼ落着き、そろそろ終わると思うのだけれど、平常心を取り戻した僕にとって、それはハードルが高すぎる。
それでもアダム様の悲しそうな顔を見るとつい口を開けてしまった………。
ようやく休暇が終わった……。
アダム様は何とか休暇を伸ばそうと必死にジーク兄様に掛け合ったみたいだけど、叶うことは無かったようだ。
「少将殿が休暇を取られていると言う事は、その間私の仕事が滞ると言う事です。」
「わ、わかっている」
と言う事で、アダム様は仕事に復帰した。
そしてアダム様が仕事をしている間、僕はまたメイベルさんと二人きりだ。
と言ってもメイベルさんが僕にかまうのは必要最低限の事だけ。
「申し訳ありません。ご主人様からそう仰せつかっていますので」
笑いながらメイベルさんが教えてくれた。
アダム様、気持ちは分かる気がしますが、お留守の間は僕とても寂しいんです。
この数日間、僕の隣にはいつもアダム様がいた。
それに慣れてしまい、一人になるのがとても寂しいんです!
アダム様が帰ってきたら抗議しよう!絶対!出来ると…思う……。
「マシュー君、テストをしましょうか。」
ある日僕の部屋を突然訪れたジーク兄様がそう言った。
何でも僕の今後に付いての、事前調査だそうだ。
「テスト…ですか?以前の事が思い出せない僕に解けるでしょうか」
「そんなに気負わなくても大丈夫ですよ。
あなたにどの程度の記憶が残っているのか確かめるだけですから。テストなんて、名ばかりのものです。
簡単なものから難しいものまで、ランダムに出してありますから、分からなければどんどんパスしてくれていいのです」
そう言って、僕の前に30枚ほどの紙の束を置いた。
こんなにたくさん解くのでしょうか……。
「大変かもしれませんが頑張って下さい。終了時間は午後5時です。それを過ぎるといつ少将殿が帰って来るか分かりませんからね、その前に終わらせましょう。それとこれを。」
そう言って何冊かのいろいろな本や紙の束をテスト用紙の横に置く。
見てみると、辞書やこの国の歴史を書いた本、地図、その他色々な資料だった。
「あんちょこです。参考にして構いませんよ、ずるにはなりません。あなたの読解力力や分析能力を見たいので。それとこれもどうぞ」
そう言って、サイドテーブルに紅茶のポットとカップ、
それから色々なお菓子の乗ったお皿を置いてくれた。
「しばらくは誰にも邪魔させませんから安心して下さいね。
あなたのエロ狼殿も今日一日、船に放り込んでおきましたから。
帰港予定は午後5時です。私はテストの邪魔をしませんが時々寄らせていただきますよ。分からない事が有ったら遠慮なく聞いて下さい。それもテストの内です。それから、用の有る時はそこのベルを鳴らしなさい、すぐ来ますからね。」
「はい、ありがとうございます。」
「気負わず、リラックスして、出来る物だけやればいいですからね。では、また後程伺います」
そう言い残してジーク兄様は出ていかれた。
良かった、資料を見てもいいのなら、そう重要なテストではないのだろう。
とにかく一通り目を通してみようかな。
「ふふ、何かおかしい」
取り合えず、30枚全てを眺めたけれど、よくまあここまで雑多なものを作ったなと感心してしまう。
だって、小さな子供でも解けるような足し算の次に、見たことのない数式の問題が並んでいたり、その次にはこの料理の作り方を述べよなんてあったり、何か楽しくなってしまう。
「この様子なら分かるものだけなら半日もかからず出来そう。残りは資料を調べながらやればいいかな」
そう思い、僕は1枚目を手に取った。
ふと気が付くと、いつの間にか14枚ほどやり終えていた。
終えていたと言っても分かる物だけを記入したので、答えの空欄はかなりある。
「ずいぶん集中しているようですね。」
わっ、びっくりした。
いつの間にかジーク兄様が横に立ち、僕を見下ろしていた。
「お茶のお代わりを持ってきたんですが、ノックをしても返事がなかったので入ってしまいました。どうですか?進み具合は。」
「はい、取り合えず分かるものだけやってしまおうと思って答を埋めています。その後は、お借りしたこの資料を使ってみようと思っていますが、なんか楽しいです」
「そうですか良かった。ちょっとお借りしますね」
そう言いながら、ジーク兄様は僕のやり終えた用紙を手に取った。
見返しもしてないので、多分不正解もあるだろう。
「なかなかいいですね、でもあまり根を詰めるのはよくありません、少し休憩しましょう」
そう言ってジーク兄様はカップに暖かい紅茶を注いでくれた。
少しお話をしてからジーク兄様は引きあげた。
でもその後も何度か部屋を訪れ、一緒に食事したり僕と知り合う前のアダム様の話を教えてくれたりして、気分転換させてくれた。
「さてタイムアップです。いかがでしたか?」
「とても楽しかったです。特に僕には絶対解けないと思った問題が、参考資料を使い解けた時は本当にうれしかった」
まだどうしても解けない問題も有るけれど、もう時間だしこれがもう僕の限界だ。
「けっこうです。ところでマシュー君、話は変わりますが、あなたはこの先どうしたいと考えていますか?」
「この先?」
どうしたいかと急に聞かれても分からない。
逆に、僕はどうしたらいいのか聞こうかと思っていたぐらいだ。
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