第17話 休暇二日目

ジーク兄様も帰られ、僕はベッドに横たわった。


「マシュー早く眠った方がいい」


そうアダム様は仰るけれど、触ったり、撫でたり、ギュッと抱きしめられたり、挙句の果てはキスしたり、スキンシップが激しくて、これでは眠ろうと思っても眠れません!


「すまない、マシューがあまりにも可愛くて、愛しくて……」


「僕、隣の部屋に行きましょうか?」


僕のせいでアダム様が眠れないのなら、寂しいけれど僕は自分の寝室に戻った方がいい。

そう思いベッドから降りようとすると、力強いアダム様の腕で引き戻された。


「だめだよマシュー、お前の眠る場所はもうここしかない。そうだ、明日向こうの寝室を処分しよう」


処分て何ですか!?処分て。


「いけない、マシューもう寝なさい、休養を取らねば体に障る。いや、そんな目で見なくてもいい、今夜はもう手を出さないと約束するから」


そう言って腕の中に僕を囲い、ポンポンとまるで赤ん坊にするように背中を優しく叩く。

これだけでも僕の心は高鳴るのに、アダム様に取っては手を出していない範囲なのかな?と思ったけれど、嬉しいから良しとしよう。


「アダム様…」


「ん?」


「僕はここに居ていいのですよね?」


「マシュー何を?」


僕の様子に何か感じたのか、真剣な目で僕を見つめる。


「僕はもうどこにも行かなくてもいいんですよね?僕はずっとアダム様の傍にいてもいいのですよね?」


「当たり前だ、何を心配する。こうして俺の腕の中で眠るのはマシューただ一人だけだ。もし不安ならば、100枚、いや1,000枚でも婚姻届けにサインをし、そこら中にばら撒こうか。いや、国一番の教会で大々的に式を挙げるのもいいな。マシューには純白に金糸の刺繍をした礼服を用意して……ドレスは嫌か?お前なら絶対に似合うと思うのだが、だが他の奴に美しいマシューの姿を見せるのも嫌だな。」


アダム様は一人で盛り上がっているみたいだけど、僕はもう限界。

あくびを噛み殺しながら、安心できるアダム様の腕の中で丸くなり、眠りに落ちた。




翌朝目を覚ますと、すでに起きていたアダム様と目が合った。

お疲れなのかな?目にクマがある。


「おはようございます」


僕はいつものようにアダム様の首に手を回し、チュッと頬にキスをする。


「違う」


「えっ?」


僕は何か間違えたのかな。


「マシュー、俺達は夫婦になったのだから、朝の挨拶はこうだ」


そう言い、アダム様は僕の唇を塞ぐ。

いきなりの事で面食らったけれど、それは決して嫌では無かった。

触れ合うだけのキスじゃない、もっと心の奥深く繋がりを感じるようなキス。

何と言うか、今まで以上に仲良くなった言うか、親しくなれたと言うか、とにかくアダム様との距離が凄く縮まったように感じる。


「嫌だったかマシュー?」


真剣な中に不安が少し混じったような目で、そう問いかけられた。

だから僕はゆっくりと首を左右に振る。


「嫌では無いです。いえ、むしろ嬉しい」


そう笑う僕の顔を見た途端、アダム様は顔をそむけた。

彼の思いは僕と違ったのだろうか?

それならなぜキスしたの?夫婦の挨拶として必要だったから?

困ったな………。


「こらこらマシュー、また考えが明後日の方向を向いてるだろう」


「え?だってアダム様、僕とのキスが嫌だったのでしょ?」


「お前、どこをどう取ればそう言う事になるんだ」


はぁ~と息を吐き、頭を抱えているみたいですけど、僕はまたまた間違がったのかな。


「で、どうしてそんな考えになったんだ?」


アダム様に僕の目を覗き込まれどぎまぎする。


「だって…キスしたあと、僕を見るの嫌みたいだし…」


「マシュー、どこの世界に愛する妻へのキスを嫌がる男がいる?」


「いないのですか?」


「いないな」


そうか、いないのか。


「ならば何故アダム様は、先ほど僕と目を合わせるのを嫌がったのですか?」


すると何故かアダム様が楽しそうに笑う。


「そう、疑問に思った時は、今のようにどんどん口から吐き出す事。決して心に溜めてはいけないよ」


いけない油断した。


「ご、ごめんなさい。僕なんかが出過ぎた事を言いました。言うべきでは……」


「ストップ!」


アダム様が急に僕の声を遮る。


「どうやらもう一度最初から教えなければならないようだな」


そう言い僕を抱き上げ、向かい合わせなるようにアダム様の膝の上に降ろされた。


「マシューこれから言う事は俺の本心であり願いだ。嘘は絶対につかない。だから忘れないよう心にしっかり刻み付けなさい」


「はい」


「一つ、俺がこの世で唯一無二と愛するのは、マシューただ一人だ。」


「そ、それは有り得ません、僕なんて……フッ」


言葉を言い終わる前に、アダム様に唇で黙らされた。

それは先ほどみたいな深いキス。


「黙って聞きなさい。二つ、自分なんて、僕なんてと自分を卑下する事はやめるんだ。俺はたとえ本人が言ったとしても、愛する妻が侮辱されるのは我慢できない。マシューは誰よりもきれいで、誰よりも優しくて、誰よりも賢くて、どんな奴にも劣らない俺の自慢の妻なんだから」


一体それは誰の事ですかと言いたかったけれど、アダム様との約束だから僕は黙って聞くことにした。


「三つ、私達は正式に結婚した夫婦だ。その事について誰にも文句など言わせない。だからマシューは心配などせず堂々としていなさい」


「四つ、夫婦となったのだから、俺達は心にも言葉にも壁を作ってはいけない。だからマシューも言いたい事があるなら、心に溜めずはっきりと俺に教えてほしい。その気持ちをさらけ出してほしい」


僕に思った事、感じた事を隠さず全て話して、気持ちまで伝えろと言うのだろうか。だけどそんな事したら、きっとアダム様の負担になる。そして僕は嫌われてしまう。


「五つ、俺達は夫婦だ。だから一緒にいる時間をもっと増やして、お互いを分かり合い、温かい家庭を作っていこう。俺はかなり我儘な人間だから、もし気に障る事が有ったら言ってくれ、絶対に直してみせる。」


「ほほぅ、それはいい事を聞きました。あなたに直してもらいたい事が有ったら、マシュー君に言えばいいのですね」


その声は…


「ジーク兄様!お早うございます」


「お前いつからそこに」


「だいぶ前から扉の外で待たせていただいてました。私も野暮をしたくありませんからね。しかしいつまで経ってもイチャチャしているので仕方なくお邪魔した次第です」


「おまっ、俺は今日から休暇だぞ!」


「残念、昨日からです。今日は既に二日目ですね」


「分っているなら邪魔をするな」


アダム様はまるで僕をジーク兄様から隠す様に抱きしめる。


「できれば私もそうしたかったのですが、今日ばかりは外せない予定が詰まっています。残念ながら少将殿。お時間です」

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