第15話 初めての…
※R表現有り
僕の名は先ほどまではマシュー・エイムズだったみたいだけど、それからたいして経たないうちに、マシュー・ギランと言う名になったみたいです。
僕の一番大切な人は、アダム・ギラン様。
そう、僕の旦那様。
「私からの説明はこのぐらいですが、この後はどうなさいますか?」
「当然すぐに書類を出しに行く」
アダム様はそう意気込んでいるけれど、いつの間にか外には雨雲が張り出している。
「アダム様、天気も悪くなりそうですし、もう時間も遅いです。お役所には明日行きませんか?」
今から出かければ帰る頃にはもう暗くなってしまう。
今日はお休みだから窓口は開いているだろうけれど、正式な受付は結局は明日だ。
でも明日もアダム様にはお仕事があるだろうし、やはり今日中に行った方がいいのかな、でもやはり二人そろっての届け出は恥ずかしい。
「いや、こういう事は延ばせば延ばすほど何かと邪魔が入るものだ。出来れば今日動きたい」
「あなたの場合はチャンスを逃したくないだけでしょう?根端は見え見えですよ」
「なんだと!」
あぁ、本当に羨ましい。
「だがマシュー、お前少し具合が悪いのではないか?」
そう言いアダム様が僕に触れる。
「ほら、熱があるだろう?」
「大丈夫です、何ともありません」
額に当てられたアダム様の手をそっと剥がし、ニコリと笑いながら僕はそう言う。
本当はさっきから少し熱っぽかったけれど、我慢できない程ではない。
「それよりもお役所に行かれるのでしょう?それならばあまり遅くならない様に早く出なければ」
「いや、やはり今日は止めておこう。」
「でも…」
「たとえ書類を出さなくとも、魂の繋がりは既に俺はお前のものであり、マシューは俺のものだ。違うかい?」
はい、たとえ証など無くとも僕はあなたのものです。
そのアダム様の言葉は僕に喜びをもたらし、楽しくて、心が弾み、心が高揚する。
「アダム様、アダム様、嬉しい。僕の全てはあなたのもの。たとえ誰が何と言おうと、アダム様が僕を必要としなくなるまで僕はずっとあなたの傍に居ます。」
「マシュー、まだそんな事を……」
「少将殿、また顔が怖くなっていますよ」
ジーク兄様のそれを聞いた途端、アダム様が僕に向かいニッコリと笑って下さる。
あぁ、やっぱり好きだ。
僕はアダム様が大好きで、死んでもいいほど愛している。
「アダム様、アダム様僕は…。」
変だ、体が熱い………。
「あなたを…愛しています。いつまでも僕を傍に置いて下さい。」
アダム様が好き、いつもの様に僕を抱きしめて?
「あなたは僕の事を好きなのでしょう?」
それなら僕にキスして。
「僕を愛して?」
「マシュー!?一体どうした!ジーク、マシューが変だ!」
体が熱い、アダム様の事を愛するほど、身が焦げるように熱くなってくる。
きっと僕がアダム様の事が好きすぎて、体がオーバーヒートしてしまったんだ。
熱い、でも体の力が抜ける。
アダム様は僕の体の異変を察知したのか、急いで僕を支える。
そして僕は、慌てて支えてくれたアダム様の腕に身をゆだねた。
アダム様がすぐに僕を掬い上げ寝室への扉を開けた。
僕は冷たいシーツの上に横たえられた。
今アダム様はジーク兄様と話をされている、寂しい、イヤだ。
「どこにも行かないで…、僕の傍に居て……」
僕はアダム様を求めて宙に手を伸ばす。
「大丈夫だマシュー、俺はどこにも行かないずっとここにいる」
そう言われても僕は不安で、差し伸べられたその手に抱き着いた。
僕はおかしくなってしまったのかな?
こんな僕ではアダム様の為にならないと捨てられてしまうのかな?
そう思と辛くて悲しくて、後から後から涙があふれてしまう。
「どうしたマシュー!?辛いのか?大丈夫だすぐに医者を呼ぶ、きっとすぐに良くなる」
「少将殿、微かに漂い出したこの香りと言い、多分マシュー君はヒートです。」
「そう言えばマシュー、お前さっきからいい香りがする」
アダム様は僕の首筋に顔を押し付け、スンっと匂いを嗅ぐ。
いつもなら恥ずかしい行為だけれど、今の僕は嬉しくてうっとりしてしまう。
「マシュー君、ヒート用の薬を処方してもらった事は有りますか?っと、あなたは覚えていないのでしたね。」
耳から入るジーク兄様の言葉が理解できない。
ただアダム様だけが欲しい。
「仕方ありません、私はすぐに医師を呼んでまいります。詳しい診断をしなければ、適切な薬の種類や量を把握できませんからね」
「あぁすまないジーク、俺はマシューの傍を離れられない」
「それは当然の事です。しかし分かっていると思いますが、いくらヒートの誘惑があると言えマシュー君の体調が優先です。まだ本調子ではないと思いますので手出しは厳禁ですからね」
「そんな事は分かっている!こんなに辛そうなマシューに無体な事などしない!」
「信じます。では」
ジーク兄様が慌てて部屋を飛び出していく。
一体どうしたのだろう、でも僕の傍には変わらずアダム様がいて下さるからどうでもいいや。
僕は手を伸ばし、アダム様のシャツのボタンを一つ外し、
ペロッと首筋を舐めてみた。
「美味しい…」
「ま、待てマシュー。それは嬉しい、嬉しいが今は時がまずい」
僕の動きを抑え込むつもりでアダム様が僕を組み伏せるが、それは僕が望む事でもあるのに。
「ア…ダム様、あ…熱いです……指先も、つま先まで、……たまらない……お…願い………た…すけ…て………」
それを最後に、僕の意識は暗闇に沈んでいく。
「やはり体が限界だったか。だが下手に体力を使うよりこの方がいい。お休みマシュー、少し残念だったよ」
どこかでそう聞こえた気がした。
「よくお休みのようですね、良くやりました、彼の体の事を考えればこの方が良かった。」
「そう…だな」
「先生の話では、多分彼にとって初めてのヒートでは無いかとの事です。残念でしたね、せっかく巡り合えた運命の番の初めてのヒートに立ち会えたのに、手を出す事すら叶えられないとは………心中お察ししますよ。」
「茶化すな、殺すぞ」
「嫌ですね冗談ですよ。さ、先生からご説明が有ります。応接間でお待ちですよ」
パタンと扉が閉まる音がした。
「何があったんだろう…」
途中から記憶が曖昧だ。
確か僕はアダム様とお役所に行こうとして、それから………。
確か体が熱くなって、そして…。
薄っすらだが次第に記憶がよみがえる。
途端に頭にかぁっと血が上った。
「僕は何て事をしてしまったんだ…」
アダム様に対してなんて卑猥な事を言い、あんな事をするなんて。
穴があったらその中に潜り込み、この身を隠してもう誰にも晒したくない。
そう思い頭を抱えてベッドの上で身もだえる。
それでも足りずゴロゴロと転げまわった。
「バカだバカだバカだ、僕は……一体どうすればいい!?」
もうアダム様に会す顔が無い、夜が明ける前にどこかに消えてしまおうか。
勢いが付いた体がするりと滑り、ベッドから落ちる。
体が狭い場所に落ち着き、考える余裕が少し戻る。
まだアダム様に会う勇気は無いけれど。
このまま朝まで顔を合わさず…という訳にはいかないか。
ここはアダム様の寝室なのだから。
ならば早いところ心を落ち着かせ、何とかアダム様と顔を合わせられるようにしなければ。
するとかすかな音と共に明かりがさす。
そしてベッドに近づく足音がする。
「マシュー?」
アダム様だ、どうしよう、僕にはまだ彼に会える心構えが出来ていない。
焦っているせいか、また次第に体温が上がってきたような気がする。
”ど…して……治ったはずなんじゃ……”
バサッと肌掛けを剥ぐ音がした。
「マシュー?一体どこに……」
だが僕にはまだその声に応える勇気はない。
「マ…シュー、マシュー?…どこだ…マシュー!」
慌しく走り去る足音、続いて扉が閉まる響きと共に、また暗闇が訪れた。
その間も僕の体温は上がり続け、体はアダム様を求める。
遠くで僕を呼ぶ声と、走り回る足音がする。
呼んではダメ…こんなみっともない僕を見られたら後で後悔するよ。
アダム様に幻滅されてしまう。嫌われるぐらいならこれ位、我慢しなきゃ。
ギュっと体を縮め身を小さくする。
それでも体のほてりは収まらず、嫌な冷汗が体を伝う。
そして段々と息が上がってくる。
苦しい、誰か助…け…て………。
それから気が遠くなっていく…………
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