第9話 密談 アダム+ジーク

「少将殿、お話が有るのですが少しよろしいですか?」


部屋を出る際にジークがそう言う。

多分マシューの件で何かしら進展が有ったのだろう。

俺はマシューをベッドに戻し、廊下で待つジークの下に向かった。


「で?何か分かったのか」


「はい、マシュー君が保護された時期に提出された国内全ての捜索依頼を確認しました。Ωに対する依頼は他のものに比べあまり多くありませんでしたので、調べるのも意外と楽でしたね」


まぁ、そうだろうな。


「中でも、年齢、特徴の近い人物で該当する者が3人いました」


「そうか」


「もし依頼が出ていればと仮定しての調査でしたが、その3人の件のうち、1件がマシュー君に該当されるかと」


「根拠はあるのか」


「先ほどマシュー様の仰っていた名前と、その依頼書に記載された関係者の中に同名の者がいます。一人や二人なら偶然とも考えられますが、複数の名が該当する事から、ほぼその依頼で間違いないかと」


「そうか……捜索願が出ていたのか」


出されていない方が都合がいいと思っていたのだがな。


「で、あなたも私に何か言いたいことが有るのでしょう?」


「ああ、先ほどの名前の件だが、抜け落ちている名が一つあった」


「どういうことです?」


「お前もきいていただろう?先ほどマシューが言った名を。それ以前にマシューが一人で呟いていた時の名を比べると一つ足りない」


「何ですか?それは」


「エリック」


「当たり…ですね。その依頼で失踪した本人の名です」


そうか、エリックと言う名前か。

だが今は、俺のマシューだ。


「ですがこの件、少々問題があります」


「何だ」


「捜索願いですが、エリック君が失踪されてから7日経ってから提出されています」


「7日後だって?失踪した日ではなく?なぜそんなに間が開いたんだ」


「……失踪に気が付かなかったそうです」


「気が付かなかっただと…?」


無責任にもほどがある!

人を何だと思っているんだ!


「捜索願いが出された日付は」


「6月20日です、つまりは失踪したのは6月13日。もしこの日から漂流していたとなれば、おそらくマシュー君は…まあ、エリック様がマシュー君としての話ですが、私達が救助した日から逆算すれば、ほぼ10日間海の上にいた計算になります。加えて言うならば、13日の夜は嵐、その後はずっと晴天だったと記されています」


10日も……神よ彼の命をお救い下さった事、感謝します。


「その依頼書は」


「署の保管庫の中に、他の沢山の捜索願いと共に保管してあります。尚、可能性のあった3件に関しては詳しい内容を調べるよう、秘密裏に依頼を出してあります。エリック様の件についても、じきに結果が届くかと」


「助かる」


マシューはやはり周辺からΩとして虐げられた存在だったと言う事か。

彼の家族がその気なら、それなりの制裁も覚悟しておいてもらおう。


「まあいい、とにかく俺がその捜索依頼に目を通す前に、マシューとの手続きを進め、一刻も早く彼を妻にし身の安全を優先する方が大事な問題だ」


「そうですね。その方がよろしいかと。何せ捜索願いは国中から届いています。それもかなりの数です。依頼は順次調査するのでエリック少年の行方が分かるまで時間も掛かるでしょう。それにマシュー君側からの身元調査も彼が記憶喪失では聞き取りも出来ずかなり時間が掛かりますし、いつ取り掛かれるかも分かりませんからね。結果が出るまでの彼の身の安全を考えるなら、さっさと結婚しちまいなさい」



フフ、ジークは相変わらず俺の事を良く分かっている副官だ。

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