四章 「告白」
駅には、仕事を終えたサラリーマンが溢れかえっていた。この中で好きな人と今から会う人はどれくらいいるのだろうかとそんなことをふと考えた。
恋すると考えることまで変わるらしい。
彼は十九時に待ち合わせの場所に現れた。
私はほっとした。
私は行く前からもうすでに楽しい気分になっていた。
「じゃあ、食べて飲んで騒ぐぞー」
「大学生か。まずは仕事お疲れ様」
ビールを頼んで、まず乾杯した。
バーは少し暗いけど、間接照明の色が綺麗でいい雰囲気を出していた。フロアも黒と赤を基調としていて、素敵だ。
「お疲れ様ー。やっぱりビールはうまい」
「バーに来て、ビール頼むなら居酒屋で良かったんじゃない?」
「とりあえず生でしょ。わかってないなあー」
「はいはい。ところで胡桃沢さんは休みの日は何してるの?」
どうしてだろう、なんだかドキドキする。バーという雰囲気がそうさせているのだろうか。彼がどことなくいつもよりかっこよく見える。そして、休みの日を聞かれると、つい期待してしまう。休みの日に私とどこかに行きたいと思ってるのかなとか考えてしまう。彼を意識しすぎだろうか。
「うーん、買い物に行ってるかな」
「買い物?」
ドキドキを悟られないようにお酒を注文しようと思った。彼に次何飲むかと聞いた。すると、「じゃあ僕が頼むよ」と言ってくれた。スマートだなあと思った。彼はジントニックを頼み、私のカルーアミルクを一緒にお願いした。カルーアミルクなんて普段飲まないのに、やはり彼を意識しているのだろう。少しでもかわいく思われたい。
「そう、服屋さんに行ったり、雑貨屋さんに行ったりね。買うときもあればウインウーショッピングだけの時もあるし。楽しいんだ」
「ふーん、かわいいね」
やっぱり黒瀬さんがいつもと違う。胸の鼓動が治らない。
ふと自分の姿を見ると今日は仕事帰りだから、スーツ姿。なんの色気もない。一回家に帰れば良かったかなと後悔した。
カルーアミルクを少し飲んだ。
「黒瀬さんは?」
「僕は猫飼ってるから、その猫とまったり過ごしてたりしてることが多いかな」
黒瀬さんの性格やかわいい見た目からして、猫といるところが似合いすぎる。
「猫見てみたーい。写真とかある?」
彼は「あるよ」と言って、スマホを見せてくれた。
他人のスマホを見れるなんてなんだか特別な気がする。秘密をこっそり覗くワクワク感があった。
そこには茶トラの可愛い猫がいた。すごく可愛がられてるのが写真からもわかった。
羨ましいなあと私は思った。
私も彼の猫になりたい。
「にゃー」とふざけて猫になってみると、彼はかわいいと言いながら笑ってくれた。
ただただ幸せだった。こんな時間がずっと続けばいいのにと思った。彼の笑顔をずっと見ていたいと思った。
私はさらにピーチフィズを頼んだ。なんだか少し体が熱い。それでも飲まないとドキドキでどうにかなりそうだった。彼はさっき頼んだジントニックをまだゆっくり飲んでいるようだ。
疲れているからだろうか、いつもより酔いがまわるのが早い。頭がクラクラする。
だから、今言われたことが本当かどうかわからなかった。
「胡桃沢さんを彼女にしたいと思う」
「酔ってるからでしょー」
私は笑いながらすぐさま否定した。
「そうじゃない。胡桃沢さんは単純で馬鹿みたいにポジティブだけどいい人だし、一緒にいると楽しいからこれから先も一緒にいたい」
彼の真剣な目の虜になってしまった。綺麗な目をしている。こんな顔今まで見たことない。どうして彼はこんなにも私の心をかき乱すのだろう。好きすぎてどうにかなってしまいそうだ。
「嬉しい」
いつものようにちゃかしたかったんだけど、私の体は正直だった。
私は涙を流していた。
心を通わせたいときは、多くの言葉はいらないのかもしれない。
彼はそっと抱きしめて、背中をゆっくりさすってくれた。
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