二章 「そもそものこと」
「雪乙女座のあなた、今日は恋愛運が急上昇。モテモテな一日になるかも」
テレビからポップな音楽とともに今日の占いが伝えられている。
カーテンが開けられた窓からは暖かい太陽の光が入ってきて、気持ちがいい。私は朝が好きだ。朝ってだけで明るい気持ちになれる。まあ元から私はポジティブだから暗くなることはないんだけど。
テレビをチラッとみて思う。占いは嫌いだ。基本何でも受け入れる私にとっては珍しいのだけど。ある時から嫌いになった。興味本位でも信じない。
未来なんて、そんなに簡単に知っていいものじゃないと私は考えている。
そもそも知ったところでどうすることもできないことがほとんどだろうけど。
それでも誰もが未来を求めてしまうのだろうと私は考える。
未来がわかればどんなに楽かと誰しも一度は考えたことがあるだろう。
気持ちはわからなくないし、私もそう考えたことはある。でも未来は案外複雑にできている。
そうこうしているうちに、いつの間にか家を出る時間になっていた。
私は急いで行く支度をして、家を出た。
「おはようございます」
私は昨日言った通りに彼に元気に話しかけた。
今日は眼鏡をかけていない。そんな姿も素敵だ。
「おはよう」
彼はわざわざこちらを向いて丁寧に返事を返してくれた。「また変な奴から声かけられた」と、普通無視とかするのにねと自分でしておきながら思う。
律儀だなと私は感心した。好感がもてた。
私達は電車から降りて、駅構内を歩いている。
もう季節は夏で、まとわりついてくるような暑さが辛い。
「今日は大切なことを聞きにきました」
私はありったけの笑顔を作る。
「何ですか?」
彼は少し興味を持ってくれたようだ。
「あなたの名前を教えてください」
「まずは付き合うより前に、そこからだと思いますが」
「小さなことは気にしないでくださいよ」
「小さなことではないですよ」
彼が頑なな態度を取るので、最終手段に出た。私は頭を下げた。
「名前教えてください」
「えっ、頭上げてくださいよ。困りますから」
人が多い駅で、止まっている人はあまりいないし、頭を下げている人はもっといない。私達ははかなり目立っている。彼はびっくりして私の肩を揺すった。
「教えてくれるまであげません。あっ、自己紹介が遅れました。私は
彼は頭をかいてため息をついた後で、ぼそっとこう言ってくれた。
「
その降参したような顔がすごくかわいかった。かわいいというより、この人には人を幸せにする何かがあると感じた。
「ありがとうございます。では改めて黒瀬諒さんよろしくね」
私は親しみを込めてタメ口で話してみた。
それを感じたのかどうかはわからないけど、彼は少し笑って何も言わずに歩いて行った。
彼の笑顔が見れて嬉しくなった。いつの間にか彼の笑顔をまた見たいと思っていた。
前よりは親しくなったのかなと私は思った。
階段に差し掛かった時、私は彼を引き寄せて抱きしめた。
「なっ、なにするんですか」
「ハグしたくなったんですよ」
その時前からすごい勢いで階段を降りてくる人がいて、ぎりぎりで私達はぶつからなかった。
彼からは甘い匂いがした。その香りは私をドキっとさせた。
しばらくくっついていると「いい加減にしてください」と彼に怒られた。
彼の新しい一面が見れた。優しい彼も怒ったりするんだ。と私はなぜかそれが嬉しくて、しばらく笑っていた。
すると彼も「笑う所じゃないから」と言いながら笑っていた。
同じ気持ちになれたことが、どうしようもないぐらい嬉しかった。
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