迷探偵は謎を解きたい。
「どうしてこんな事に」
そこにはしっかりとした作りの良いメイド服を着込んだメイドさんが不安な顔を浮かべて立っている、この家は金持ちらしいけど日本でリアルなメイドさんって珍しいな、旦那さんの趣味だったりして、ぼくはそんな事を頭のすみで考えていた。
「申し訳ないのだけど刑事さん、わたくし達とても疲れているの、早めに済ませていただけるかしら」
奥さんが目鼻立ちの整ったメイドさんの疲れた表情を見て少し語気を強める。
フフ
「直ぐに終わりますよ奥さん、ぼくに任せてくださればね……」
そしてぼく、ぼくっ娘桃色ツインテイル探偵
「
ぼくはアゴ長で
「昨晩23時30分、奥さんの通報で事件が発覚、死因はバールの様なも物で後頭部を殴られた事による
目黒警部はぼくに事件現場のリビングで事件のあらましを話してくれた、何故ならば探偵に事件内容を話さなければ
「つまり目黒警部は18時~23時までオペラ鑑賞に出掛け食事をして帰宅した奥さんにも、そもそも旦那さんが屋敷に帰宅した18時より早く17時に仕事を終え奥さんの許可を得て実家の母親の元に泊まった言うメイドさんにも殺害は無理とおっしゃりたいのですね」
奥さんの許可を得て、と言うのはメイドさんがこの屋敷の夫婦が緊急時に屋敷に駆けつけると言う条件で借り与えたと言う近くのマンションに住んでいたからで(なんか破格の条件だな)最近
「そうだ、奥さんにもメイドさんにもアリバイがあるんだよ江戸城くん」
だがぼくは納得がいかなかった、間違なく殺害したのは奥さんなのだ。
「目黒警部、後ろから近づいた奥さんがバールで旦那さんを殺したあと何らかの方法で体温を維持したんです、旦那さんの体温を
「奥さんのアリバイ? 江戸城くんそれならメイドさんもだろう? しかしアリバイ崩すと言ってもどうやってだい?」
目黒警部はぼくに問いただす。
「例えば電気毛布とか!」
「それは無理があるよ江戸城くん、電気メーターの記録では使われた可能性のある家電製品は無いんだよ」
目黒警部はそう言ったがぼくは奥さん犯人説に強くこだわった。
「では湯たんぽです、湯たんぽ! 湯たんぽで奥さんが」
「いや江戸城くんそれでは全身を暖めるのは不可能だよ」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……」
ぼくは考える、他に体温まで遺体を温める方法は無いのだろうかと。
「江戸城くん何故そんなに奥さん犯人説にこだわるんだい?」
「そうですわ、何故わたくしが犯人なのです! そうおっしゃるなら確たる証拠を見お見せいただきたいですわ!」
「そうです、奥さまはお優しい方です、そんな恐ろしい事をなされる方ではありません」
その場にいた奥さんがぼくを捲し立て、メイドさんも奥さんをかばいぼくの考えを否定した。
「そうだ! これです目黒警部、確か旦那さんは潔癖症でしたよね、ほら屋敷のゴミ箱が空だ、つまり旦那さんはウェットティシュで手を拭いたり手を洗ったあとペーパータオルを使った
ぼくは屋敷のあちらこちらにあるウエットティッシュやシンクの横にあるペーパータオルのゴミがこまめにゴミを片付けるデキるメイドさんのお陰でゴミ箱にまったくない事を見つけ出したのち帰宅直後の犯行だと推理した。
「確かにそれは殺害が帰宅直後の可能性を示しているが検死結果をくつがえすとは言えないし奥さんを犯人とする証拠にはならないよ江戸城くん、そして何より
「……確か推理小説において[証拠は全て読者に提示してから推理を始める]とか言うあの意地悪なやつですね」
「そうだ推理小説の基本だよ江戸城くん、君はゴミ箱が空と言う情報を話す前に推理を始めてしまっている」
目黒警部は痛いところを突いてきた、あと出しの証拠は読者に対する不誠実なのだ。
「でも奥さんなんです! 奥さんです! 奥さんが犯人なんですよ!!」
ぼくは手をバタバタと振り回し、駄々っ子のように言い続けた。
「だから推理をしたまえ江戸城くん! 君はこの小説の探偵なんだから!!」
目黒警部のご意見はごもっともである、推理小説である以上推理で犯人を追い込まなければならないのだ。
ハッ!
「そうだノックスです! ノックスの十戒では[犯人は最初に登場してはならない]事になってます! だから最初に登場したメイドさんは犯人じゃありません! だから奥さんが犯人です!!」
ぼくは
「……江戸城くん、残念だかそれでは駄目だよ、ノックスの十戒を推理に使うのはこの作品がミステリーコメディーだから良いとしても、それは[探偵は犯人であってはならない]から君と最初に登場したメイドさんが犯人ではないと言うだけで私、目黒慶蔵がまだ犯人に含まれるんだよ」
目黒警部あんたスゲーよミステリーファンの鏡かよ! 自分の身を危険にさらしてまでノックスの十戒を守るなんて……
「そうですわ、全くの迷探偵ですわ」
「その通りです奥さま」
確かにそうなのだ……ぼくの推理は破綻してしまっている、なんか推理小説は書くのがめんどくさいって思った作者のいいかげんさが構成に表れ文面に
「はあ、やっぱり昨日、奥さんが旦那さん殺した現場を見ちゃったって言うのは推理小説としてダメだよね……」
「「「…………???!!!」」」
目黒警部とメイドさんが奥さん顔を瞬時に見つめた、奥さんの顔からは血の気が一気に退き表情は固まり青ざめた。
「どう言う事かね、江戸城くん!」
目黒警部はひきつった笑顔でぼく見つめ聞いてきた。
「え? ん?? 目黒警部これは推理小説だから殺害の現場見ちゃったら推理にならないって事なんですけど……」
「あれを見ていらっしゃったの? 探偵のお嬢さん……」
「奥さま?」
「はい、昨日の18時30分に旦那さんの後ろから近づいた奥さんがバールで頭かち割るのを近くの高台から見てました」
奥さん、せめてカーテン閉めようよ……
探偵として推理を諦めたぼくは死んだ魚の様な目をしてそう答えた。
「何故直ぐに通報しなかったんだい江戸城くん!!」
「え? だって完全に即死だし、ぼく探偵だし、この小説は推理小説だし、推理しないといけないかなって……」
「江戸城くん、使命感が間違っているよ」
探偵が殺人現場を見ていたら推理小説にならないと言う
◇◆◇◆
エピローグ
奥さんはぼくの超絶推理劇のあと警察署で素直に自供しました。
動機は怨恨、旦那さんはメイドさんに言い寄っており、メイドさんのマンションの防犯カメラの映像や実家周辺のコンビニのカメラの映像を遡って行くと旦那さんが何度もメイドさんに付きまとい行為をしていた映像が残っていた。
「そうです、奥さまはお優しい方です、そんな恐ろしい事をなされる方ではありません」
メイドさん確かそんな事言ってたな、怨恨か……奥さんは旦那さん行動に怒りを燃やしたのかそれとも付きまとい行為に耐えてるメイドさんを守ろうとしたのか?…………どっちもかな。
「まあ奥さんはメイドさんを怨んでは無い感じは確定かな?」
「どうしてそんな事が言えるんだい? 江戸城くん?」
警察署の自販機の前で目黒警部とあたか~いコーヒーを飲みながらぼくらは2人で話す。
「だってほら、ぼくが犯人なら殺したあとメイドさんに罪を
「そう言うところはちゃんと名探偵なんだな、江戸城くんも……」
「でしょ♪」
死亡推定時刻がずれていたのは不法投棄されていた石油ストーブを使って部屋ごと体温まで遺体を暖めた死亡推定時刻改変トリックであった(石油ストーブは不法投棄の現場に戻したらしい)、そしてあの奥さんご丁寧に灯油の量を調整し20時に消える様にしてしておき、その時間から体温を下げ始める念の入れようだった、しかしそれを犯人である奥さんの自供で聞いた上ストーブの話が事前に出てこないのでは推理小説としては不親切極まりないとしか言いようがないのだ。
「江戸城くん、次からは事件に出くわしたら直ぐに警察呼ぼうね!」
ぼくは通報をしなかった件で目黒警部にめっちゃ怒られたあとだった。
目黒警部は優しい言葉使いとはうらはらに目が笑っていなかった……通報するって大事だね!
迷探偵は謎を解きたい。 山岡咲美 @sakumi
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