第3章 子どもの限界 4

学校の授業が始まっても、ヨシコは全く集中出来ないでいた。外は鬱陶しいほど晴れていて、夏の暑さを視覚でも感じるようになってきた。エアコンが全ての教室に配備されたのは昨年で、みんなそこそこ快適に過ごしている。エアコンの音や先生の声、たまに生徒の声が聞こえるが、ヨシコはどの音も同じように聞こえる錯覚に陥っている。


トシさんを刑務所から救い出す。それも方法を何も考えないで。そんなゆうとの言葉には驚いた。ゆうととはもう何年も一緒に生活しているが、突拍子もないことを言い出したことは一度もない。慎重派のゆうとが、チズに影響されたのかな?何はともあれ、トシさんを救いたいというのはみんなが同じ気持ちだ。


そもそも、助けること自体が無謀なことだというのは私もゆうとも理解している。シンとジンだって。分かっていないのはチズだけだけど、チズにとっては分からない方が良いだろう。あの年だし元々の家庭環境も私たちと比べても相当複雑みたいだし。純粋なチズでいてもらうためにはその方が良い。




「ヨッちゃん、今日何だか考え事してたみたいだけど、何かあった?」

授業が全て終わり、帰り際に教室で友達が話しかけてきた。この子は色んなことに気付いてくれる。

「ううん、大丈夫。ありがとね、心配してくれて。」

私はなるべく何も悟られないように答えた。

「何かあったら相談乗るからね!何でも言ってよ。」

「ありがとう。また明日。バイバイ。」

友達は走って部活に向かった。私は家に向かって歩き出した。


余計なことを考えるのはもうやめよう。トシさんを助ける。ゆうと、シンとジン、チズと一緒に。そのことは変わらない。絶対に助けて、またみんなで一緒に生活したい。それが私の今の一番の願いだ。



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