第3章 子どもの限界 2

ある日、自分の服を洗面台で洗っていると家のピンポンが鳴った。父さんも母さんも留守の昼間に誰か来たからびっくりした。いつもは絶対に出るなって父さんに言われていたけど、この時は外が明るくて良い天気だったから、神様が迎えに来ていると思ってドアを開けた。そこには大勢の大人が立っていて、

「君の他に、誰かいるかな?」

そう聞かれて、恐怖ですぐに記憶が飛んだ。



目を覚ました時、どこだか分からなかった。白がたくさん見えるベッドの上で僕はただぼーっとしていた。

「目が覚めたかい?今先生を呼んでくるよ。」

お父さんより少し歳を取っているであろう男の人が優しく話しかけてきた。この時からトシさんは不思議な魅力を纏っていた。

「先生って、学校の?ここは学校?」

僕が聞くと、トシさんは微笑んで答えた。


「ここは病院だよ。お医者さんを呼んでくるから、安心して待ってなさい。」

トシさんは病室から出ていった。


それから先のことはよく覚えている。僕が両親からの暴力を受け続けていたことを近所の人が知り、児童相談所というところに連絡をしたらしい。そこで僕は強制的に保護された。僕はろくな食事を取っていなかったせいで極端な栄養失調だったらしい。


そしてトシさんというおじさんがいる「渡り鳥」という施設で新しい生活をスタートさせた。



トシさんは、いつも「お前は俺の息子だ。困ったことがあれば何でも相談しなさい。俺は一生お前を守っていく。」と言ってくれていた。おかげで学校に通うことも出来たし、普通の人間として生活することが出来た。それからヨシコやシンとジン、チズたちも「渡り鳥」にやってきて、その度にトシさんは

「みんなは俺の子どもだ。ゆうと、仲良くしてやってくれ。」

と言っていた。今思えば、僕と同じようにみんなはトシさんに救われていたんだろう。その時は、僕は何も考えずみんなと接していた。それが逆に「渡り鳥」独特の空気を作り出していたのかもしれない。


順調に歳を重ねて、僕も高校を卒業することになった。卒業式を終えて家に帰り、トシさんと話をしていた。僕は学校で得た知識から、児童養護施設には18歳までしか住むことは出来ないということを知っていたので、そのことをトシさんに聞いた。


「トシさん、僕もう高校を卒業して来年19歳になるよね。ここを出ていかないといけないんだよね?」

トシさんは当たり前のようにこう答えた。

「ここはお前の家だ。ずっと居てもいいんだよ。」

トシさんは優しい笑顔を浮かべていた。そうか。ここは僕の家だ。そして、トシさんは僕の親だ。そう思ったけど、一つだけ疑問があった。

「僕の本当のお父さんとお母さんはどうしているの?僕を叩いていた義理のお父さんとお母さんは、今も一緒にいるの?」


「ゆうと、ゆうとの親は私だけだ。これからも、何があってもお前を守るのは、私だよ。」

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