第3章 子どもの限界 1
11月の終わり。本格的な冬が始まろうとしている。僕は今までの経験で培った知識を駆使してそんなことを自分の部屋で考えていた。正直、四季については詳しく知らない。でも冬だけは知っている。部屋にいるときに寒さで死にそうになるから。暖房もコタツもあるわけがなく、母さんの帰りを待つだけの日々。その母さんは、3月まで帰って来ないというのに。
「ゆうと、飯。今日はこれ食っとけ。」
「ありがとうございます。」
父さんが帰ってきたのは外が明るくなりかけている朝の6時半。寒さと空腹で眠りにつけない僕は身をかがめて待っていた。
貰ったのは菓子パンが2つ。2日ぶりの食事にしては贅沢な方だ。菓子パンが2つある時は、大抵3日以上何も食べていない時くらいだもの。
「父さん、母さんは?」
汗の染み込んだ作業着でソファに座る父さんに聞いてみた。
「母さん?帰ってくるわけないだろ。お前がいるのに。」
父さんは表情を曇らせて言った。そうだ。僕のせいで母さんは帰ってこないんだ。僕がいると世話をするのが煩わしいから。
「3月になったら帰ってくるだろ。お前が寒い寒いって泣かなくなるからな。」
「僕、もう泣かない。だから、母さんに帰ってきてって言ってよ。」
父さんは僕が言い終わる前に僕の頬を叩いた。
「誰のせいだと思っているんだ!自分の子どもじゃないお前を俺が食わせてやっているのにそんな口を聞くな!」
そうか、僕はこの人の子どもじゃないんだ。忘れていた。母さんは、僕の本当の母さんなのかな?
「母さんはお前さえいなければ俺と一緒に住んでくれるんだよ!子どもなんてもの持っているから厄介なんだよ!」
ごめんなさい。心の中で何度も謝った。でも謝ることの意味も効果もよくわかっていない。叩かれることに変わりはないから、どうせ謝っても無駄だ。
僕は今9歳の男の子。学校には全く通っていなくて、友達ももちろんいない。物心ついた頃には義理の父さんと実の母さんがいて、2人に叩かれる毎日を送っていた。母さんはいつも口癖のように、
「あんたがいなけりゃもっとマシな人生だった。」
と言っている。気付けば母さんは寒くなるとどこかへ行ってしまっていた。僕が寒いって泣くから鬱陶しいと父さんは説明している。
大人からの暴力にもそろそろ慣れてきたな。他の子どもは暴力を振るわれているのかな?大人も他の大人に叩かれたりするのかな?痛いのってすぐ治るものなのかな?
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