第2章 新たな日常 8
警視庁の一室で落ち着きなくおどおどしている警視総監の花川。警察のトップに君臨してまだ3ヶ月、これから自分の時代が始まると思ったのはそう遠くない過去だが、今はどの警察官よりも不安な日々を過ごしているのかもしれない。
物思いにふけっていると、ドアがノックされた。
「失礼します。総監、例の2人が到着しました。」
「おう、通してくれ。」
「総監、本当にあの2人で大丈夫でしょうか?私の耳にも全く名前が届いていませんでしたが。」
不安と疑問の目を向けている男は警視監の1人、湊。警察官になる前からの古い付き合いで、今は最も信頼できる部下だ。次期警視総監の呼び声が高い。
「いいんだ。下手にキャリア警察官を呼ぶと色々なところに噂が回るだろ。」
「末端を呼ぶ方が噂になると思いますが。」
確かに、湊の言う通り。しかし、花川にも考えはもちろんある。
「どのみち俺が直接刑事を指名すれば噂になる。それがキャリア刑事なら色々な推測が出来てしまうだろ。末端ならより深い推測も出来るが、限界がある。」
「あくまでも関わるのは数人という事ですね。わかりました。私も慎重に動きます。」
湊は納得していない顔をしているが、今はそれで良い。
少しして、再びドアがノックされた。
「失礼致します。」
湊に続いて入ってきたのは、まだ20代に見える若手刑事が2人。
「おう、よく来てくれた。入りたまえ。」
「立川と、後輩の高橋です。コンビを組んでいます。」
立川は足を震わせながら2人の自己紹介をした。後ろにいる高橋はしっかりと花川の目を見つめていた。後輩の方がしっかりしているようだ。
「そんなに緊張しないでくれ。私が直々にお願いしたいだけだ。」
「はい。早速ですが、どのような用件でしょうか?」
今度は高橋がはっきりとした口調で質問してきた。
「ああ、ある事件の容疑者のことを調べてほしい。その周辺にいる人物も全てだ。とにかくその容疑者のあらゆることを調べてほしい。」
立川と高橋は全く理解していない顔で見上げている。
「つまり、その容疑者は警視総監に何かしら関係のある人物ということでしょうか?」
立川は素直に質問する。
「立場をわきまえろ。警視総監が悪事を働こうとしていることを意味するぞ、それは。」
湊がすかさず割って入る。
「失礼しました!」
2人は揃って謝罪の言葉を投げた。
「良いんだ。確かに関係ないとは言い切れない。だが、私との関連性は二の次だ。その容疑者の正体を突き止めることに専念してほしい。」
花川は落ち着き払っていた。
「そんなに強敵なのでしょうか?裏に大きな組織があるとか?」
高橋はやや怯えた表情で言った。
「それも含めて、全面的に捜査してほしいということだ。」
「かしこまりました。早速取り掛かります。」
「何かあればすぐに報告してくれ。あと、ここに来るときは私服で来てくれたまえ。刑事としてではなく、取材記者という体で来てほしいんだ。」
花川の言葉をすぐに飲み込む。
「かしこまりました。」
立川と高橋は一礼して出て行った。
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