第2章 新たな日常 1

3週間前


緑に囲まれた巨大な建物の中に入っていく大柄な男。ここに来る人は皆、助けを求め、救いを求める。そんな大病院で働いている人間が、1番助けを求めているとは、誰が想像するだろう。


日本の私立病院の中でもトップクラスに君臨する、大蔵病院。この病院の元院長で名誉理事の金子愛斗は、いつものように病院の裏口から理事室へと入る。

今は現場を離れ、理事として裏方で病院を支えている。老若男女、様々な人間が働いているが、皆様々な事情を抱えていることだろう。金子もその1人に過ぎない。


「おはよう」

「おはようございます、理事」

「今日も平和だな」

「今のところは、ですね」

金子を迎えるのは、副院長の金子真。金子愛斗の次男であり、有能な医者。後継者でありながら、副院長の真。一族経営の悪しき風習を改めるべく、副院長という立場で病院を支えている。医者としても人間としても優れている。


長男の信二は、20歳の時に亡くなった。優秀で誠実な男だったが、病には勝てなかった。大病院の院長なのに、子供一人救えないなんて、情けない。当時はそうやって自分を責めたものだ。真の存在がどれだけ大きいか、今になってわかる。せめて、この子とここに来る患者さんの一人でも多くの命を救いたい。その一心で働いている。


「そういえばお父さん、昨日家に妙な郵便物が届きました。何やらフリーの記者からのようです。」

愛斗は胸にザワっとした感情を感じた。今までこんなことはなかったのに。いや、ないように努めてきたのに。そうか、とうとうきたか、この時が。自らの行動に思いを馳せた。

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