第1章 僕たちの幸せ 6

カランコロンカラン


「おはようございます。」

「おう、おはよう。」


まずは手を洗って、少し洒落た制服に着替え、少しダサめの帽子を被る。ダサいというのは優さんの前では禁句。本気で落ち込ませたことがあるから。


「今日も早いな、そんな気張っても今日も暇だぞー」

「僕が早く来ないと優さんいつまでもサボってるでしょ笑」

「ゆとりを持って人生を生きてるのさ。」

ボサボサの髪をなびかせ、コーヒー片手に新聞を読んでいるのは、僕のバイト先のカフェ店主、優さん。いつもテキトーだけど、どこか頼り甲斐のあるところは、トシさんに少し似ている。


「本当にいつも悪いわねー。」

申し訳なさそうに言うのは、優さんの奥さんの真琴さん。絵本からそのまま飛び出して来たかのような可憐なその立ち居振る舞いは、優さんとの間にあるアンバランスな見た目すら綺麗に見える。なんで優さんを選んだのだろう。


「真琴さんに優さんは勿体ないですよー。」

「俺の若い時を知らんからそんなこと言えるんだぞ。」

「まだ若いじゃないですか。」

ラフなこのバイト先、本当に好きだ。



「ありがとうございましたー。」

最後のお客さんを見送り、暖簾と看板を片付ける。

「ゆうと、飯食っていくかー?今日はご馳走だぞ。」

「あ、じゃあお願いします。」

こうして晩御飯をご馳走になることも少なくない。トシさんのご飯も美味しいが、真琴さんのご飯も最高だ。


「俺がサボってるせいでゆうとが大変だって怒られるんだよな。」

「まぁ、それは事実ですけどね。」

「そうなんだよ、だからご飯くらいご馳走しないと気が済まないってよ。」

「分かってるならサボらないでくださいよ。」

「はーい、」

絶対分かってない。

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