第1章 僕たちの幸せ 4


5人の子供が集まると、やはり賑やかだ。僕は20歳だけど、中身はまだまだ子供。みんなと同じような温度差で話をすることが出来る瞬間は、子供でも良いかなと思う。


「へー、この犯人捕まったんだね。」

ヨシコがテレビのニュースを観ながら言った。

「虐待?だって、子供に暴力振るうなんてサイテー」

「でも、私も親にそんなことされていた気がするって、親戚のおじさんが言ってた。」

チズの言葉に、その場が少しだけピリッとした。


チズは、親がいない。生まれた時からずっと。虐待されているも何も、その対象がいないし、チズは知らない。チズは、何も知らない。そんな子に余計なことを吹き込む大人に怒りを覚える。

「チズの親は俺だ。俺は今までも、これからも絶対そんなことしない。」

トシさんが力強く宣言する。

「でもトシさんになら暴力振るわれても、私が悪いって思っちゃうから、大丈夫だよー!犯罪はダメだけどね!」

10歳の女の子が放つには、重すぎるような、切ないような言葉。チズは本当に、何も知らない。


「どんな犯罪にも、してはいけない理由があるんだ。だから犯罪なんだよ。世の中でダメとされていることは、してはダメなんだ。」

「世の中って、難しいね!でも、逮捕された人も、少し経ったらすぐに会いたい人に会えるようになるから、別に大丈夫なんでしょ?」

「・・・まぁとにかく、犯罪っていうのは、誰かに迷惑をかけてしまうから、ダメなんだよ。」


聞いていられなくなったのか、ヨシコが重い空気の中発言する。

「あ、トシさん!明日私友達の家に泊まるから、ご飯いらないよ!」

「えー、ヨシコ姉ちゃんずるいー!さては、男だな?」

チズがニヤニヤしている。

「ちょ!何言ってるの!シン!ジン!また余計なこと教えて!」

「さては、男だな?」

「さては、男だな?」

ニヤニヤと笑いながら話す2人を見て、ヨシコ以外爆笑する。いつもこうやって、普段話さないシンとジンが空気を一変させてくれる。渡り鳥は、本当に絶妙なバランスで保っている。


「男の所に行くときは、いつもみたいに私にそーっと話しなさい」

真顔で話すトシさんに、また爆笑が起こる。

「もう!みんな知らない!」


今日も平和だ。

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