鬼神社

ツヨシ

第1話

ある日のこと、いつものように交番で勤務していると、本部から連絡があった。

神社で窃盗事件があったそうだ。

行ってみると神主が入口で待っていて、奥に案内された。

「見てください」

そこには賽銭箱が横になって転がっていた。

動かないように停めていた器具も壊されているとの事。

窃盗と器物破損だ。

被害額はよくわからないそうだ。

「鬼を祭っている神社なのに。罰当たりなやつめ」

神主が強くそう言った。

とにかく神社はいつでも誰でも出入り自由だ。

一応捜査はしたが、現行犯でもない限り犯人が捕まることは、あまり期待できないだろう。


それから一ヶ月も経たないうちに、また連絡があった。

あの神社の賽銭箱が再び狙われたようだ。

行ってみると前回とほぼ同じ様相。

賽銭箱が横倒しになっている。

一通り捜査をした後、俺は神主に言った。

「防犯カメラをつけることをお勧めします」

神主はそれにはなにも答えなかった。

二度も賽銭を盗まれているのに、やけに落ち着いていた。


二度目の事件から翌日、交番に男が文字通り駆け込んできた。

「どうしました?」

見た目四十歳くらいの小柄な男が言った。

「神社の賽銭を盗んだ。二回だ。早く捕まえてくれ!」

あせっている。

怖がっている。

それもそうとうに。

そんな声色、顔色、態度だった。

「とりあえず話を聞こうか」

「早くしてくれ。鬼が、鬼が来るんだ!」

俺は鬼の話は聞かなかったことにした。


       終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鬼神社 ツヨシ @kunkunkonkon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ