滝行
運気が爆上がり! なんて魅力的なんだ。
けど、髪を伸ばすのはちょっと……。
何としてでも運気を上げたい!
「他には? 他には運気をアップさせる方法はないの?」
「あるのじゃ。滝行するのじゃ」
「滝行? 滝に打たれるという、あれのこと?」
「そうなのじゃ。1回3000円以上なのじゃ」
高い! 俺はポケットに手を突っ込んで、小銭をかき集めた。
手一杯に集まった小銭。数えると……! 「98円!」少ない。
「案ぜずともよいのじゃ。今日はレイヤーは無料なのじゃ」
いつもは3000円以上。それが無料って、おいし過ぎる。
俺もコスプレしてくればよかった。
今からでも間に合うだろうか。
「佐藤さん、コスプレって、どうすればいいの?」
「佐藤さんって、誰のことなのじゃ! わしはヒメユリヒメなのじゃ」
怒ってる。さっきは佐藤白布だって自分で言ったのに。
面倒くさい。
「ヒメユリヒメ、教えてください。コスプレのしかた!」
「簡単なのじゃ。好きなキャラのコスチュームを着ればいいのじゃ」
なんだ。簡単じゃないか。それだけでいいのか。
よし。好きなキャラ。好きなキャラ。好きなキャラ…………特にない。
「だめだだめだだめだーっ! 俺には好きなキャラが、いなーいっ!」
「いるではないか……なのじゃ」
えっ? 語尾がブレない。
「ヒメユリヒコという、絶好のコスプレ対象がいるのじゃ!」
そんなに好きじゃないんだけどなぁ。
というより、存在を知ったのも今日がはじめて。
どんな衣装を着ればいいのかもイメージできない。
けど、この際だからそれでいい。
他にコスプレしたいキャラがいるわけでもない。
「ヒメユリヒコって、どんな格好をしていたの?」
「……それは……のじゃ」
「そっ、それは……」
なんだ? 口に出すのもおぞましい格好なのか!
聞かなきゃよかった……。
「TPOに合わせた格好なのじゃ」
「TPO?」
「時と場所と場合なのじゃ。普段は、普段着なのじゃ」
「それって……」
「そうなのじゃ。今の格好で充分なのじゃ」
「じゃあ、俺も滝行を無料で体験できるの?」
「もちのろん、なのじゃ!」
こうして俺は『今、ヒメユリヒコのコスプレしてます』という体で、
ヒメユリヒメと一緒に滝行することとなった。
神社の受付。『滝行3000円以上、レイヤーは無料』の看板がある。
「本当なんだ……」
ちょっと感動。
「ヒメユリヒメは嘘つかないのじゃ!」
どやるヒメユリヒメ。
「じゃあ、佐藤白布は?」
と、揶揄う。
白布は真顔で「見る」と言った。
見ません。そこは絶大なる信頼を寄せていることをやんわりと伝える。
無料だからって、利用者がいるかどうかは別問題。
俺たちだけだったらどうしよう。断ろうかな。
よく考えたら、滝行なんかで運気が爆上がりするなんてありえない。
その言葉には信頼を寄せていない俺がいる。
「じゃが、真実は真実なのじゃ!」
じゃが! 自信たっぷりに言った。
「別に、疑ってなんかいないよっ」
「ならば安心なのじゃ。もし疑っていたりしたら……」
そう言われると、自分の気持ちが分からなくなる。
俺は本当に疑っていないのか? それとも……。
「……運気は爆上がりしないのじゃ」
あぁ、そのパターンか。
運気が爆上がりしなかったら、信じていなかったからってことにされる。
運気が爆上がりしたら、信じてよかったね。
神様の常套句。
「大丈夫。神様が信じられるかどうか分からないけど、ヒメユリヒメを信じる」
「ヒメユリヒメは神様なのじゃ。同じことなのじゃ」
「違う。俺が信じるのは、佐藤白布のヒメユリヒメ」
「何を世迷言を申すのじゃ! 同じことなのじゃ!」
同じってこともないのに。佐藤白布が神でない限り。
滝行の予約を入れる。3000円は払えない。
本当にコスプレとして認められるのか。
不安だ。喉がからからになる。
「レイヤーさん、2名。入りましたーっ!」
受け付けてくれた禰宜さんの掛け声。
「はい、よろこんでーっ!」
宮司さんが応じる。なんてノリなんだ。
小学生の俺には分からない。
俺たちより先に来ていた滝行志願者がいた。
素人っぽいレイヤーさんが2人、こっちを見ている。
気合の入った白布の装束にそわそわしている。
戦隊ヒーローもののホワイト大集合みたいな御一行様もいる。
ガルホワイトだの仮面ホワイトだのパンチラホワイトだの。
年代を感じる。
「今年もこれで9人が揃いました」
「では、参りましょう。真実の滝行へ!」
真実の滝行。宮司さんは確かにそう言った。
6月30日を『ラブコメの日』にしたのは、ちゃんとした理由があるから説明させてくれ! 世界三大〇〇 @yuutakunn0031
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