第24話 普通に逃げちゃう
リンカー闇夜のヤミーを下した源十郎は、直ちに意思持つ鎧ラオ・エクトムを呼び戻す。
しかし、それは再び自らが装着するためであっただろうか。
「鎧、エランを背負ってくれ! 急いでここから出る!」
源十郎は他人を気遣う広い心を持っているかと言えば、それは否だ。
良い人を演じていたのは、あくまで自分の環境を整えるため。
自分の命と他人の命であれば、迷うことなく自分の命を選択する。
だが、恩義を感じた者であればその限りではない。
源十郎は借りを作るのを嫌った。だから、返せるときに返すように心掛けている。
したがって、それが今、というだけなのだ。
「待ってください。それではアマネが危険に晒されます」
だが、ルトゥータは源十郎の決断に不服を申し立てた。
彼女にとって、第一に考えるのはあくまでアマネなのだ。
恩義があるとはいえ、アマネにとって邪魔になるのであれば、ルトゥータは機械的にエランを排除するだろう。そして、それに躊躇う心はもう無いのだ。
何故ならば、命を奪う事が普通になってしまっているのだから。
「大丈夫だ、ショゴ……ゲフンゲフン。てけりり、がいるから」
どっちでも同じである。
だが、源十郎に頼られた怪生物てけりりは、任せろと言わんばかりにやる気を見せている。
これにルトゥータは渋々ながら折れる形となった。
「お願いしますね、てけりり」
「てけり・り~!」
「デッド君はルトゥータを! 斧はエランを守れ! 行くぞっ!」
だが、この采配はエランを守り通してカーマ鉱石採掘場を脱出するには最適解の布陣だ。
まなじ、普通の少女の能力しか持たない源十郎がラオ・エクトムを纏い、エランを運ぶとなるとラオ・エクトムは源十郎の身体を優先する。
したがって、彼女の肉体にダメージが行かぬよう、わざとゆっくりとした動きを取るのだ。
だが、今は内部に源十郎がいない。よって、ラオ・エクトムは本来もつ性能をいかんなく発揮できた。
なので、多少なりともエランにダメージは行くが、ラオ・エクトムは脱出に掛かる時間の短縮を最優先としたようだ。
また、源十郎も痩せた体の成果を発揮できている。
ぶるんぶるん、と躍動する一部の肉に顔を顰めながらも彼女は必至に走った。
途中、出口に先回りしていた暗殺者たちによる襲撃があったものの、それらはてけりり、とデスグラビトンアックスが容易く排除。
また、デッドバブリースライムの毒によって、軟体生物は近寄る気配を見せない。
そのままの勢いで出口へと駆け抜け外へと出た。
「うわわっ、大惨事じゃねぇか」
出た先にはいくつもの死体が転がっていた。そのことごとくが一撃で仕留められている。
その死体どもの中心にエルフの青年の姿。彼は体中に返り血を浴び、赤い彫像とでも言えばいいのだろうか、という有様だ。
「お見苦しい姿を晒してしまい申し訳ございません。相当腕が鈍っていたようです。お恥ずかしい限りでございます」
心底情けない顔を見せたオグハスは、腹いせとばかりに暗殺者の亡骸を蹴り上げる。それが宙で爆ぜた。
どうやら、懐に爆弾を抱えていたようだ。
「往生際が悪い。さぁ、アマネ様。一刻も早くガイラントの洞穴へ」
「あぁ、その前にエランという恩人が負傷した。どこかで休ませたい」
「エラン? ここで活動していたのは、おまえだったのか」
オグハスの声にエランが薄っすらと目を開けて反応を示した。
「オ、オグハス様……申し訳ありません……不覚を……」
「話は後だ。オグハス、とにかく案内を頼めるか?」
「御意」
合流したオグハスは先頭に立ち、源十郎がついて来れる絶妙の速度で走り始めた。
奇しくも、カーマ鉱石採掘場の出口は、源十郎たちが合流地点とした街の北側付近であり、そのまま彼らはガイラントの洞穴へと向けて逃走を開始した。
追手をかく乱するために森の中へと進入するオグハス。
闇夜のヤミー配下の暗殺者たちは、そのヤミーが死んだことに気付かぬまま、源十郎たちを追撃する。
その彼らは一人、また一人とを消してゆく。
それは決して、二手に分かれ獲物を挟み撃ちにする、というものではなかった。
「おかしいですね。暗殺者どもの気配が……」
「ふひー! ふひー! な、なんだってー!?」
「あ、いえ。アマネ様、ここら辺で休憩を取りましょう。追手は引き上げていったようです」
「マジかー、ようやく、走らなくて済むんだな」
源十郎は、よたよたと大きな樹へと倒れ込んだ。
ダイエットしてスリムになったとはいえ、その体力は同じ年頃の少女の平均よりも下回っていた。
なので、死にたくない、という一心で無理矢理足を動かしていた部分が大きいのだ。
「今の内にエランを。回復ポーションは?」
「黄金のポーションを飲ませました」
「……原液ですか?」
「まさか。ちゃんと水で割ったやつです」
「それは何より。原液はいけない、原液は……」
オグハスのトラウマに触れたのであろう、彼はぷるぷると身体を震わせ虚空に向かって遠い眼差しを見せた。
そして、何故かというか、当然というか、てけりりがドヤ顔を見せている。
そのタイミングで何者かが音も無く、だらしなく気を抜いた源十郎の前に姿を現した。
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