第14話 普通にダンジョン踏破、あと大惨事
ターバンの少年レイクスと第五魔将オグハスが激しい戦いをしている頃。
アマネたちは、それいけ、それいけと下層を目指してゆく。
通常であれば、かなりの物資を持ち込まなければ最下層への到達は困難とされており、事実、このナトルサス・ダンジョンの最下層到達は、今現在であっても報告されたという事実は存在しない。
「も、もう帰りましょう。こんなところ誰も来ないわよつ」
「帰ったら負けだと思ってる~」
「負けてもいいじゃないっ! 人間だものっ!」
尚、ルトゥータ。
「大丈夫、大丈夫~。食料も沢山あるし、無くなっても魔物を食べればいいんだよ~」
「そうだけど、そうじゃないっ!」
無数に転がる魔物の死体。それの、どれもこれもが伝説級の化け物たちであった。
だが、彼らはその全てが手も足も出ないまま、アマネによって一撃で殺されてしまっている。
これはアマネが強いのであろうか? 答えは否だ。
彼女が強いのではなく、魔王の鎧とデスグラビトンアックスが強いのである。
そして、魔物たちが普通ウィルスによって、極限まで弱体化してしまっているが故に、絶対にアマネには勝てない、という状況に追い込まれているのである。
これは断言するが、アマネ自身は普通の人間の少女となんら変わらない。
ただ違うのは、その魂と魔力の波長である。
それは確かに普通の人間が持つものではなく、しかし、魔族が持つものでもなかった。
「あっ、魔物~」
ぐしゃっ。
やはり、アマネを喰らわん、と魔物が果敢に襲い掛かるもナメクジレベルの動きでは彼女に一撃を入れる事などできはしない。
加えて魔王の鎧ことラオ・エクトムは自動迎撃システムを組み込まれているので、480度、全方向からの攻撃に即時対応する。
それは、アマネが寝ていた、としてもだ。
また、デスグラビトンアックスは、これとは別に迎撃システムを搭載。
重力制御によって自在に宙を飛び回り、自動的に害成す者を駆逐する。
もっとも、彼らは殆ど出番がなく、てけりりとデッドバブリースライムが代わりを務めていた。
「うわぁ、これってクリスタルドラゴンよね? 戦いの神も手を焼くって言ってた魔物よ?」
「へ~、そうなんだ。さっき、てけりりとデッド君もやっつけたよね?」
「てけり・り」
「ぷくぷく」
これを受けて、ルトゥータはいよいよ考えることを放棄し始めた。
今はもう、辿り着くところまで辿り着いて、さっさと帰りたい気分のようだ。
更に時間は過ぎて、現在地下五十階。
重力の影響が凄まじく、流石のてけりりとデッド君も、重力の干渉を受け付けない無限リュックサックの中に避難。
そして、女神ルトゥータも雑に無限リュックサックの中に押し込まれていた。
アマネは、というと普通ウィルスのお陰で普通に行動可能だ。
もっとも、デスグラビトンアックスの所有者である彼女は、元々、ここを進む資格を持っているのであるが。
「魔物もいなくなったねー」
「こんなところで生きていられる生き物なんていないでしょ!? もう帰りましょうよ!」
「あっ、下に降りる階段発見~」
「まだあるのっ!?」
無限リュックの中から情けない悲鳴が聞こえた。
だが、無情にもアマネは更に下層へと潜ってゆく。
その頃にはレイクスとオグハスの戦いも終了していた。
結果は痛み分け。互いの実力を隠しながら戦っていたため、結局は決着が付かないまま、それぞれが撤退した形だ。
「ちぃ、まさか上位魔族が、まだ残っていたとは。お嬢に伝えるべきか? しかし……」
血に染まった腕に包帯を巻きながら、上位魔族の脅威を認めるレイクスは、脳裏に憂い気な白髪灼眼の少女の姿が浮かべた。
しかし、彼は首を振ってそれを掻き消す、と厳しい表情を浮かべる。
「ダメだ、もう彼女に戦わせるわけにはいかない。もう、十分過ぎる程に戦ったじゃないか」
レイクスは後ろ髪を引かれるも、アマネの捜索を断念する決定を下す。
想定外の消耗をしてしまったためである。
「すまないとは思うが、ダンジョン内の出来事は全て自己責任だ」
そう言うと、レイクスは懐から一枚のカード取り出し宣言する。
「リターン」
瞬間、彼は閃光と共に、ダンジョン内から姿を消してしまった。
一方でオグハスは結構な深手を負ってしまっていた。
脇腹を切り裂かれ、かなりの血液が流れ出てしまっている。
「……ぐぅ……! ふ、不覚。よもや、あれほどの手練れだったとは!」
オグハスは魔将の中でも若輩であり、最弱とは言わぬものの強さでいえば十二存在した将の中でも下から数えた方が早い。
彼が第五魔将の地位を得ていたのは、彼が内政や諜報活動に秀でていたからだ。
だから、といってオグハスが弱いか、と言えばそうではない。
レイクスが単純に強過ぎる、というだけである。
それこそ、魔王を討ったとされる【転生勇者たちよりも】、だ。
「こ、ここで果てるわけには……!」
所持していた治療キットで応急処置をするも焼け石に水。
いつしか彼は、意識が朦朧としたまま罠だらけの通路を進み、落とし穴の罠にかかって底の知れぬ闇の中へと飲み込まれてしまった。
どんな魔物もトラップもお構いなしに進む、全身鎧の行商ちゃんことアマネは、遂に前人未到の地下七十七階に到達。
既に当初の目的は遥か彼方にぶん投げられて久しい。
「今、地下何階なんだろうね~?」
既にそれに応えられるものは無く、無限リュックサックからは「てけり・り」と「ぷくぷく」という声しか返ってこない。
美と節制の女神ルトゥータは既に思考を放棄し、体育座りにて虚空を見つめていた。
ダンジョン内も様変わりしており、地下七十五階よりは岩肌ではなく鋼鉄の壁に覆われた人工的な外観を見せている。
それらには機械が埋め込まれており、まだ生きていることを示す輝きを走らせていた。
それでも気にせずに突き進むアマネは、いったい何を目指しているのであろうか。
やがて彼女は広い空間に出る。そこは他とは違い、しっかりと手入れが成されている空間であった。
一言で言い表すのであれば玉座の間であろうか。
そこまで広くはない部屋の奥に禍々しい玉座が据えてある。それはアマネが身に付けているラオ・エクトムと同様のデザイン性を感じさせるものだ。
「ほあ~、ここが最下層なのかな~? 大きな椅子があるだけだ~」
アマネは最下層に来た証になる物を探し始めた。
しかし、ここには玉座しか存在せず、他にあるとするなら部屋の隅に不思議な模様が描かれたタイルが敷かれているだけである。
「な~んにも無いや。つまんないの~」
捜索に疲れたアマネは何気なしに玉座へと腰かける。本当に何も考えずにだ。
そこにトラップが仕掛けられている、とは微塵にも考えなかったのであろうか。
トラップは確かにあった。
資格無き者は一瞬にして生命力を吸いつくされるライフドレインの罠が。
だが、アマネは、【後継者たる資格】を【全て普通に備えていた】のだ。
ダンジョン全体に走る振動、それは目覚めたことを意味するサイン。
他の誰でもない、絶対強者。それが目覚めたという知らせはダンジョンの崩壊を以って全世界に知らしめる。
咆哮、かつてダンジョンだった物が咆えた。
大地を割り、溶岩を纏いながら姿を現す、天にも達しようかというほどの巨体を誇るは猛牛。
その全てを、五万度の熱にも耐える希少金属【カーマ・ロカ・エクシス】で構成されるは戦場にて暴れ狂う城。
歴代魔王がその生涯を、そして魔族の未来を願い完成させた……全人類の悪夢。
魔族の最終兵器、超機動要塞【ラオ・ウォルカーム】が、アマネのうっかりで目覚めてしまったのである。
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