【1週目】放課後の勉強会
【1週目】
翌日の朝。
「おはよう、森丘さん」
「お、おはよう…」
教室に入って席へ着くと、すかさず赤松さんがやってきた。
「えーと、お友達はいいの……?」
いつもはクラスの女の子と楽しく談笑してたはずだ。多分。あんまり周りを見てないからわかんないけど。
「うん。今は森丘さんと話したいから」
「あ、そ、そう……」
きゅるん、とした瞳でこちらを見つめる赤松さんは、多分そこらへんの男子なら即落ちだ。
「ねぇ、数学の課題終わった?期限明日までだよね」
「あー…、それね……」
昨日図書室で挑戦はしたものの、結局サッパリわからなかった。
歯切れの悪い返事を聞いて、赤松さんが怪訝そうに眉をひそめる。
「?…終わってないの?」
「あー…はは…まぁ…」
適当に言葉を濁しつつ頭を掻く私を見て、赤松さんがそのくりくりした瞳を更に丸くさせた。
「えっ、でもこの前…」
「え?」
「あ、何でもないの」
顔の前でぶんぶんと手を振り、赤松さんが小首を傾げた。
「それなら、私教えようか?」
「え、いいの?」
数学はからっきしな上に解法を聞く友達も居ない私にとって、願ってもない申し出だった。
「でも流石に申し訳ない…」
「いいのいいの。私から言い出したんだから」
「そ、そう?」
「もちろん」
ニコっと笑う赤松さん。周りに花が咲いて見える。
「それじゃあ、お言葉に甘えて……」
お願いします、と頭を下げた。
「うん。任せて」
赤松さんがくすりと笑ってウインクした。可愛い。
「じゃあ、また放課後ね」
丁度チャイムが鳴って、赤松さんがバイバイと軽く手を振りながら自分の席へ戻っていった。
出席番号最初と最後の宿命で、私の対角線上にある赤松さんの席。
そこに向かう彼女の背中をぼーっと見つめる。
揺れる、柔らかそうな長い髪。
それと、短めのスカート。いや、女子高生の平均なんてそんなものなのかもしれない。
あんな可愛らしい女の子に言い寄られるなんて_私が男だったら、今は人生最高潮の幸せを感じていることだろう。
……なんで、私なのかな。
自分より魅力的な女の子なんて、他にいくらでもいるのに。
そこで何故…あえて、森丘
まぁ、考えたって答えなんかわからない。
気の迷いってこともあるかもしれない。
無理やり、取り敢えず気にしないことにして、私は現実逃避に窓の外へ目を向けた。
◻️◻️◻️
_放課後の、誰もいない教室。
約束通り、赤松さんが勉強を教えてくれることになった。
「机、動かすね」
「んーん、大丈夫」
前後で突き合わせた方がいいだろうと、私の前の机を動かそうとした私の手を、赤松さんが止めた。
「え?」
戸惑う私をよそに、赤松さんが私の隣席の机を私の机にピタッとくっつけた。
目の前に出現する、ぴったりと横並びにくっついている二つの机。
「隣同士がいいから」
下から見上げてくる赤松さん。その目はずるいって。
「え、あ、そ、そう……」
「ダメ?」
「だ、ダメじゃないけど」
なーにがダメじゃないけどだ!教えてもらうくせに上から目線かお前は!
咄嗟に出た言葉に自分で突っ込む。
「よかった」
ふわりと赤松さんが笑って、くっつけた席に座った。
早く、と目で訴えられて、私も自分の席に座る。
「じゃあ、始めよっか」
どこがわからないの?と聞きつつ、赤松さんが自分のノートを開く。
そのノートにはびっしりと文字が書き込んであって、カラフルなラインやイラストなど、精一杯工夫が凝らされてあった。
「ノート…すごいね」
質問に答えるのも忘れ、思わず呟く。
「え、そうかな?」
「うん。私、こんなに綺麗にノートとったことないよ」
私はノートを取るのが大の苦手だ。そもそも文字を書くのが好きじゃない。
全教科プリント配布してくれと心から願っている。
「ホントにすごいね。教科書じゃなくて、これを皆に配布して欲しいくらいだよ…」
横からしげしげと赤松さんのノートを眺める。見るからにわかりやすそう…。赤松さんの努力の結晶なんだろうな。
…あれ?赤松さんからの返事がない。
どうしたのかと横を見ると、少し頬を赤く染めた赤松さんが居た。
え、と思い自分の今の体勢を振り返ると、ノートを眺めるために体を完全に赤松さんの方にくっつけていて_
「ごっ、ごめん!!」
「あ、いいの…全然」
むしろ、嬉しかったから。
伏し目がちにそんなことを言われて、私の頬にも熱が上る。
「は、始めようか!!えーっと、この課題1からそもそもわかんなくて!」
むずがゆい雰囲気を打破するように声を上げる。
肩に残る彼女の熱と感触は、中々消えてくれなかった。
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