第2話

リビングに戻って、ソファに腰をかける。深く、深く。天井を仰ぎ見る。何がいけなかったのか、ということはもう考えない。彼女は戻ってこない。そこに関しては妙な自信がある。僕は失敗したのだ。何をどう失敗したのかわからない。けれど、取り返しのきかない何かだろう。


彼女の言葉の意味をもう一度考えてみる。「人に無関心よね、あなた」だっけか。そうだろうか?本当に人間に興味がなければ、異性と交際なんてしてない。何を根拠に彼女はそんな言葉を残したんだ?僕を知ったような気になって、本当は僕のことを何も理解してくれてなかったんじゃないのか?

いつのまにか、胸の中心に怒りの感情が湧いてくる。なぜこんな感情にならなければいけない。もう全て終わったことだ。忘れよう。嫌なことは忘れることで平静を保てる。

目を閉じる。いろんな感情や思考が頭の中で飛び交っている。めちゃくちゃだ。今すぐにこの頭を切り開いて、目の前の机に中身をぶちまけたい。深呼吸をする。目を開けて、天井のシミを数えた。そうやって無意味な時間を過ごしてたら、全部忘れられそうな気がした。

壁にかかってる時計に目をやると、彼女が去ってから10分しか経ってない。時間がとても長く感じる。


朝から何も食べてないけど、食欲は湧かなかった。それでも、何かを腹に詰め込んで満たしてしまいたいと思った。腹が満たされれば人は幸せだと誰かが言っていた。何か口にしなければ。目に入るもので今食したいと思えるものはなかった。


不意にズボンのポケットを探ってみるとタバコとライターが出てきた。最近始めたばかりで、箱の中にはまだまだ残っている。彼女が喫煙者を毛嫌いしていたため、隠れて吸っていたが、もう気にする必要はない。ソファに寝転びながら、一本取り出す。そのまま火をつけて大きく煙を吸い込んだ。

蒸せることはなかったが煙が目に入って涙が滲んだ。

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