春が来るなら
@sake_gaill
第1話
「人に無関心すぎるのよ、あなた」
彼女の言っている意味が、わからない。
言葉の意味自体は理解できる。ただ、何を意図してこの言葉を僕に向けてきたのか、僕に何を求めているのか、それがわからなかった。
だから、なんと返せばいいのか言葉が見つからない。「どういうこと?」と問うことも、「それは悪いことなの?」と皮肉めいて返答することもできなかった。ただ、彼女が去っていく後ろ姿をぼんやりと眺める。
床に座り込んで靴を履いてる彼女を眺めながら、相変わらず綺麗な髪だなとか、髪を耳にかける仕草が美しいなとか、そんなことを考えていた。
さよならという言葉もなく、勢いよく扉を開け放つ。一度も振り返ることはない。扉の隙間から差し込んだ夕日が眩しい。彼女の伸びた影だけが玄関から覗けた。
刹那、思考する。追いかけた方がいいのだろうか。引き止めて話し合いをすべきか。いや、そんなことしなくても答えは分かりきっている。彼女はもう僕の元には戻らない。話し合いなんてしてくれるわけない。この家をさったことが何よりの証明だ。
今まで口論をしたことさえない。小さな不満こそあれど、穏便に終わらせてきた。だからこそわかった。これは彼女の意思表示なのだ。もう戻らないわよ、という。少なくとも僕はそう受け取った。
扉が閉じていく。夕日が消えていく。彼女の影はもうそこにはない。
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