第34話 “咲夜御殿”とは何か(9)
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”変幻万化”(へんげんばんか)
大量の零因子を使用し、世界のルールを改変する力。”宙の法”(そらのほう)で世界のルールを理解し、”理の法”(ことわりのほう)で世界のルールに干渉する。
それが私が使った術の詳細だ。これは、術の素質があっても一朝一夕で習得できるようなものではない。”羅針銘”(らしんめい)に溜めた大量の零因子と、スーパーコンピューターの第237霊界式零因子礼節学習電脳1982/2370(通称 れいこちゃん(鏡))の解析能力によって制御可能なものだといえる。
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今、この空間は、すでにあった条件(地割れ下の溶岩や水蒸気)を活かし、火山雷(かざんらい:火山のような溶岩や水蒸気のある場所で起きやすい雷の自然現象)の発生しやすい世界へと変えている
――つまりツキカゲさんの雷撃が増幅する世界へとルールを変えたというわけだ。もちろん、この水蒸気で楽器達の音色を変えたのも想定内だといえる。
「……なるほどね」
私の心の声を読んだのか、ツヨが感心したように大きく頷いた。
――ビカァアアアアアアァ!
――ビカァアアアァアアアアッツ!!
――ビカァアアアアアアァアアアアアァアアアアアッツッツツツ!!!
上空では、ツキカゲさんが連続で舞人形に向かい、刃の先端から大きな稲光を放っている。
もう、曲弦以外の楽器たちは残っていないようだった。
――バシッ! バッシッ! バシィンッ!!!
舞人形は鍵盤を見つめたまま、手で稲光を他の方向へ受け流している。
――――――フッ!
――――――――――ガシィイイイイイッ!!!
刹那、舞人形がツキカゲさんの目の前に現れると、両手でツキカゲさんの頭をつかみ、何かをブツブツとつぶやき始めた。
「あ……あ…………………あぁ………………あ」
”重度の催眠効果を感知”
私の宙の法が反応した。
ツキカゲさんの体は次第に力が抜けていき、両手の小太刀が一本ずつ地面に落ちていく。
「…………………………」
ツキカゲさんは意識を亡くして地面に落ちていった。
―――――――――――――――――ドサッ
「ツキカゲさんっ!!!」
私はツキカゲさんの元に走り寄ろうとする――――が、目の前に桜色の冷たい瞳が見える。
――ガッキイィイイイイイィイイイイインッ!!!
私の前で、槍状の何かが舞人形の攻撃を止めた。
後ろを見ると、ツヨの首に巻いたストールが槍状に数メートル伸びている。
――キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ
舞人形は槍状の布に攻撃を阻まれつつも、少しでも私を切り刻もうと長い金属製の爪のようなものを動かしていた。
「愛紗っ! そのまま動かないでっ!!!」
舞人形は何度も爪を立て切りかかってくる。
――バチッ! バチィイイッ! バチッッツ!!!
だが、ツヨのストールは私の周りを旋回しながら舞人形の攻撃を上手くいなしていた。
さすがツヨっ!
説明なしに渡したものだったが、宙の法”でストールの機能を理解してくれたようだ。
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この布は、”漫遊布”(まんゆうふ)と名付けている。
元々市場で購入した金属溶接加工用の防護布で、れいこちゃん(鏡)のアドバイスに従い羅津銘で布の中の金属の分子構成を変更した。その金属分子は零因子との親和性をもの凄~く高めに製錬されている。
ツヨのような宙の法の使い手なら、その金属分子に零因子を吸着・分解させることができ、形状も自由自在に変化させるができる。まさに、ツヨ専用の武器ということだ。
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漫遊布は何十本もの槍に形状を変えながら舞人形をあらゆる方向から攻撃していった。
――ガガガガガッガガガガッガガガガガガッ!!!
舞人形は次第に体勢を崩し、防御に回っていく。
「……ガ……グガ……ガ」
舞人形の中から、僅かに何かが動く音が聞こえてきた。
「…………ダ…………レ……………………カ」
「「っ?!」」
だが漫遊布の攻撃を緩めると――――――、
――キイィイイイィイイイイインッ!!!
すぐ私の方に鋭い爪が伸びてくる。
「……ガ……ア……ギャアアアアァアアアァアアアア」
――メキメキッメキメキメキメキ…………ブッワアアアッアアアアッ!!!
「「っ!!!」」
突如、舞人形の背中が割れ、内部から4本もの蜘蛛のような金属製の足が出てきた。
――バシンッッ! バシンィイイイイイイイッシンっ!!!
その足は大振りだが、漫遊布の攻撃を次第に追い詰めていく。
舞人形は私の上空に覆いかぶさるように構え、後ろからも鋭利な足で攻めてきた。
「にゃああああああああぁああああああああああ、ですわっ~!!!」
そのエグい光景に、れいこちゃん(鏡)が絶叫している。
――ガガガガガガガガガガッガガガガガガガガガガガガッガガガガガガガっ!!!
耳を覆うような騒音。
もう私の周りではどのような攻防をしているのか分からないっ!!!
――――ドクンッ ドクンッ ドクンッ
「…………………………?」
わずかに振動する方を見ると、何か赤黒い金属の塊のようなものが見えた。
「っひィ?! そっそれは、この機体のコアですわっ!!!」
れいこちゃん(鏡)が悲鳴を上げながら説明する。
発狂状態で自分の弱点を見せていることに気が付いてないのかっ?!
「れいこちゃん! ”変幻万化”を加速させるよっ!!!」
「えっ? あ、はいですわっ!!!」
私は小太刀を手に舞人形のコアに手を当てた。
「宙理っ!(そらのことわり) 変幻万化!!!(へんげんばんか)」
――ブシュウウウウウウウゥウウウウウウウゥウウウウウウウウウウウウ
所々から、より高圧な水蒸気が吹き出し、
――パキパキパキパキ、パキッ、パキイイイィン!!!
空中で瞬時に凍りついていく
「ガァァアアアア……ァアアアアアアアアアアアアァアアア」
舞人形はコアを中心に凍り始め、次第に動きが鈍くなっていった。
こちらも凍る前になんとか反撃できるようになればいいけど……、
「愛紗様っ! 舞人形の機能低下……10%……15%」
よしっ! 上手くいった!!!
――カァアアアアアアアアアァアアンッ!!!
「――っ?!」
何かが私の手元に届いた。
…………これはさっき落ちたツキカゲさんの小太刀っ?!
まだほのかに雷撃を帯びている。
『愛紗っ! 宙の法で僕の声を真似てっ!』
ツヨの言葉がテレパシーで直接心に響く。
この小太刀はツヨが私の方に蹴り飛ばしてくれたものかっ?!
「始祖:宙の一、深層共有(しんそうきょうゆう)っ!!!」
私は小太刀を手に宙の法を展開させた。
――瞬間、ツヨが私の体を隅々まで制御してくれているのが分かった。今なら、この武器とこの体で何ができるのか手に取るように分かる。
――ヴヴヴヴヴヴヴヴヴゥヴヴヴヴヴヴゥヴ……
私は次第に稲光が大きくなる小太刀をコアの前に向けた。
「始祖:宙の二、乱識無双(らんしきむそう)!!!」
――バチイイイィイイイイイィイイイイイィイイイイイイイインッッツ!!!
小太刀の稲光がさらに増幅され大きな光を放つ。
「「咲夜鬼神流(さくやおにかみりゅう):鬼龍閃(きりゅうせん)っっん!!!」」
――――――――――――――――――――――――――――――――ッカ!!!
閃光はコアの一部を破壊し、はるか頭上まで貫いていった。
「ガア……ア……ア……」
――ズシイィイイイイイイイイイイィイイイイン
舞人形は攻撃を受けた体制のまま、静かに横に崩れ落ちる。
「ヴ……ヴ………………ヴ」
もう、虫のような呼吸で私とツヨの顔を見つめていた。
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