第33話 “咲夜御殿”とは何か(8)
※セリフの符号を変更しました【R4.6.29更新】
―――――――――――――――――――――――――――――――
――フッ
曲弦が私に放った透明な針が音を立てずに消える。
「っ?!」
――タタンッ タンッ タタタタ
曲弦は続けざまに私に向かって弦を鳴らした。
――ッフッツ
だがそれらは私の近くで静かに消える。
「なっ?!」
曲弦から歪んだような音が漏れた。
「……まぁ、何が起きたのか分かりませんわよね」
カバンの表面に取り付けた れいこちゃん(鏡)はカタカタと小さく揺れる。
仕組みは簡単。
わざと致命傷になるような攻撃を受け、”死の契”(しのちぎり)で時間を止め、
その間、”流命の腕輪”(りゅうめいのうでわ)で無害な零因子に変え、”羅津銘”(らしんめい)の柄にそのエネルギーを溜める。
そして安全になったら”死の契”が反応し、元の時間に戻る。
さっきからその繰り返しをしているだけだ。ただ、永遠に繰り返すわけにもいかない。
――バシンッ! バシィイイイイイィンッ!
上空では、変わらずツキカゲさんと楽器達の攻防が続いている。
よく見ると、残りの楽器達は連携のとれた動きで、ツキカゲさんからの攻撃を上手くいなしていた。
「っはぁっ! っふん!!!」
ツキカゲさんの表情からは少し疲れがみえる。
「ぐっ、ぐぬううぅう……」
曲弦は私に警戒したのか、上空への戦闘には戻らず、私の周りを旋回しながら次の攻撃を考えているようだった。
「愛紗っ!」
ツヨはツキカゲさんを術で援護しつつ、私の方に近づいてくる。
「……ケガ、してない?」
「うん、ありがと」
ツヨは私を見ると、瞳を少しだけ潤ませていた。
「………………もう離れないから」
「ん? 何?」
「……別に」
この地鳴りでは小声はよく聞こえない。
ただ、これからはツヨに心配かけないようにしないと……
「出来ましたわっ!」
そんなことを考えていると、れいこちゃん(鏡)の得意そうな声が聞こえた。
――チーン
カバンの中から音がする。
「この声は?」
「後で説明するよ。それよりも、これ」
私はカバンの中から市場で購入したストールを取り出し、ツヨの首のまわりに巻き付けた。
「………………これは?!」
どうやらツヨも何かを感じ取ったらしい。
「とりあえず、今からすることに全力でサポートをして欲しいんだよね」
「……」
……まぁ了解したと思ってよいだろう。
「解析完了ですわっ!」
私は れいこちゃん(鏡)の合図とともに、地面と空中にそれぞれ手をあてる。
――キイィイイイイイイイイイン
”流命の腕輪”は銀色に輝きながら、植物のツタのように私に身体に巻き付いていった。
「させるかああああああああぁあああああ!」
曲弦はその様子にもう一度激しく弦を何度も打ち鳴らす。
――タタタタタタタタタタタタタッタアッタタアッタタタタタ!!!!
間に合えっ!!!
「宙理っ!(そらのことわり) 変幻万化!!!(へんげんばんか)」
――ブシュウウウウウウウウウゥウウウウウウウウゥウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!
よしっ!
地面から吹き上がった水蒸気で、音の刃が一気にかき消された。
「「「!!!」」」
――シュウウゥウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!
この蒸気は上空のツキカゲさんや舞人形が奏でる”朧風琴”(おぼろふうきん)にまで吹き上がる。
――ジリジリジリジリジリジリジリ…ジジジジジ……ジ……ジ
その蒸気からは電気がこすれるような振動音も漏れていた。
――ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ
「これは……」
ツキカゲさんは小太刀から漏れる音に違和感を感じたようだ。
その電流は蒸気中の振動音が大きくなるほど、どんどん勢いを増していく。
刀の先端では赤い球体状の光が徐々に大きくなっていった。
「ツキカゲさんっ! 早く刀を相手に向けて!!!」
「え?」
ツキカゲさんは、私の言葉に軽く小太刀を前に向ける――
――瞬間、赤い球体から”朧風琴”に向かって大きな稲光が一直線に放出された。
――ビカァアアアアアアァアアアアアァアアアアアッツッツツツ!!!
その稲光は両者の間に立ちはだかっていた楽器達をも巻き込む。
――ドカ・カ・カ・カ・カ・カ・カ・カアアアアアアアアァアアアアアアン!!!
稲光は”朧風琴”の一点にぶつかると、連続した大爆発を引き起こした。
――グギャ…アアアアア…アァアア……
楽器達は悲鳴のような音を奏でながら、次々と地面に崩れ落ちていく。
――ゴゴゴゴゴゴッゴッゴゴゴゴゴッゴ……ゴゴゴゴ……ゴ……
地鳴りの振動も鈍い……ということは、”朧風琴”にも致命的な攻撃だったということか?
”朧風琴”には幾つもの大小の穴があき、そこから焦げたような煙が立ち上っている。
「………………お前っ!!!」
その様子を見た曲弦は、私に弦を打ち鳴らそうと構える……が、
―――――――――――カスッ
「何ぃいいいいいいいぃいいいい?!」
そのかすれた音は、私に致命傷を与えるような攻撃にはならなかった。
それはそうだ。
曲弦は地面の近くでより多くの水蒸気を浴びている。
それは弦の音色を歪めるためには十分な湿気であったであろう。
――ゴゴゴゴゴゴッゴ……ゴゴゴ……ゴ……
地鳴りは次第に小さくなり、私でも自由に歩けるような弱さまで収束していく。
――ギギ……ギッ
あとは稲光の直撃を免れた舞人形をどうにかするだけだ。
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