第9話 葛葉小路商店街の怪(4)

「――ん」


 激しい肩の痛みにうなされ、私は目を覚ました。なんだか妙にリアルな夢だったな……。

 時間は7時。遠くでは、まだ三久凛(みくり)さんがツヨと話をしている。その様子は寝る前と違い、神妙な面持ちであった。


「何かあった?」


 私は、ツヨ達に近づき声をかける。ツヨの手には1冊の画集があった。

 表紙は白く、タイトルは「ふみな」、作者は彼岸 斬玖(ひがん きりく)と書かれている。


「愛紗、これ……」


 ツヨはその画集のページを私に見せてくれた。

それは、私が迷い込んだ第237霊界の風景に似ている……白い空と緑の海と青い大地……だが空は赤くなかっただろうか? 荒廃した白い神社は私がツヨと会ったそのものだった。

 他のページもパラパラ見ると、葛葉小路商店街(くずはこみちしょうてんがい)など、葛葉町(くずはちょう)の風景が描かれている。どの風景も独特な色遣いだ。


「商店街の画は色が薄気味悪いねぇ」


 三久凛さんが言う。確かに、空は赤いし、店舗も紫や緑など、見慣れない色で描かれている。


「三久凛さん、いつこの本仕入れたの?」

「さぁ……いつだろ?」


 どうやら三久凛さんも覚えていないらしい。

 私はスマホで、彼岸 斬玖について検索した。すると、インターネットでは何も情報が載っていない。


「え?」


 私は画集の奥付を確認する……最後のページには奥付も何もなかった。


「……三久凛さん、これ、印刷所も発行所も発行日も価格も何も載っていない」

「――嘘?!」


 三久凛さんも慌てて奥付を確認した。


「ホントだ……売り物じゃないじゃん……誰だ……こんな悪戯をしたのはぁああああ!」


 三久凛さんの額には青筋が立っている。いつもの三久凛さんだ。

 でも、不思議なものだ。私はよく雑誌や画集を立ち読みしているのに、その時にはこんなものなかった気がする……。

 

「……愛紗」

「ん?」

「もってけ」


 三久凛さんは私にその画集を渡した。


「え?」

「ツヨちゃんも気にしてた本だからね……売りもんでもないなら、うちには必要ない」


 まぁ、確かに売り物でないなら、凄く迷惑な本だ。


「ありがと、三久凛さん」


 私は三久凛さんにお礼を言う。


「……ありがとうございます」


 ツヨもお礼を言う。


「!!!んもう、礼なんていいんだよぉ!!! その代わり今度一人でゆっくりおいで!」


 三久凛さんはツヨを抱きしめ、グリグリと頬ずりした。

 ……まぁ、次回、三久凛さんはツヨに何をするかは知らんが、彼岸 斬玖は手がかりになったな。肉屋の手がかりとこれが繋がればいいんだけど……

 私はツヨをその場に残し、先に本屋を出ることにした。

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