第8話 関連夢:愛紗のみた夢(1)

 私は見たこともない廃墟の中にいて、まわりは黒い炎に包まれていた。雨のせいで、最初は誰の声も聞こえなかったが、耳を澄ますと遠くで誰かが歌う声が聞こえている。


「これは……夢?」


 ふと、この場所が自分の夢だということに気づく。この場所を知っているような気もするが……ここはどこだ? とりあえず、声のするほうに歩いていく。


「あら……たま………」


 歩いていくと、黒い動物の面を付けた白い着物姿の集団が見えた。彼らは円形に平伏し、すがりつくように念仏のような言葉を繰り返し唱えている。中央には祭壇があり、酒や鏡やらが祀られている。


「あらたま、にぎたま、くしたま、さちたま……おおきみ……なおひ……」


 どう見ても異様な光景だ。そもそもあれは人だろうか? 人もいそうだが、着物の隙間から毛皮や触手のようなものがみえる者もいる。

 私はあまり近づきたくないので、廃墟の物陰に隠れ、集団の様子を見た。


「……なおひっ!」


 ひととおり、何かを唱え終わったのだろうか? 狐の面を被った長身の着物姿の者が立ち上がり、上半身の着物を脱ぐ。どうやら人間のように見える。胸には光る黄色の印があった。それは私の”死の契(しのちぎり)”のように蛇のようにうごめいている。

 狐の面の男は、中央の祭壇の鏡に向かい、黄色の印に手をあてた。


「理(ことわり)の四、銀杏扇(いちょうせん)!」


 すると黄色の印から巨大な金色の扇が現れた。


「「「おお」」」


 まわりの集団がその光景を見つめ、歓喜の声を上げる。

 虎の面の男は金色の扇を手にあたりを見回し、こう言う。


「……これで我らは」


 そして次の瞬間――


 ――キンッ!


 狐の面の男は扇を振り回し、まわりの集団を切り刻んだ。

 彼らは苦しむ様子もなく、金色の煙となって扇に吸い込まれていく。


「……これで」

「……悲願が……」

「あとは……」


 彼らは、狐の面の男にそれぞれ感謝の言葉を述べ、扇に吸い込まれていった。

 狐の面の男は、金色の煙を全て扇に吸わせると、暫くその場にたたずんでいる。

 すると――


「――誰だ?!」


 狐の面の男がこちらを振返り、身構えた。

 ……どうしよう……もう隠せない……。私は立ち上がった。

 狐の面の男は、私の顔を見ると、とても驚いた様子だった。


「……ルク?」


 もちろん、私の名前はルクではない。だが、その様子は、私に危害を与えるものではなかった。


「ルク? なぜそこに?」


 狐の面の男は、面を外した――

 それは紅の瞳をした、黒髪短髪の青年だった。

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