第24話 真の力

 サファイヤ星を飛び立ったユウキは、修行の場所を探す事から始めなければならなかった。

 この太陽系には十個の惑星があり、その殆どの星には、サファイヤ星の資源採掘の無人基地がある為、修行場所には適さなかったからだ。

 ユウキが、コスモの力を借りて、他の太陽系の星を幾つか探しているうち、数千光年離れた所に、人の住めそうな青い惑星を見つける事が出来た。


 その惑星に下りてみると、空気もあり、巨大な恐竜や小動物もたくさん見受けられたが、まだ若い惑星なのか、噴火する火山も多く、人類はまだ誕生していないようだった。

 ユウキは、下り立った岬の突端に小さな家を建てて根城とした。公害に汚染されていないこの星の海や空は、何処までも青く輝いていた。

 今回の修行の目的は、何があっても動じぬ心を鍛える事と、ムミョウを倒す力をつける事だった。


『では、始めましょう』

 コスモが言って、修行は始まった。


 ムミョウが、サファイヤを手に立っている。ユウキは、何度も我が子の惨い死の幻影を見せつけられた。

 人間なら怒り狂って当たり前だが、コスモを纏ったユウキにとって、怒りに支配される事は死を意味していた。ムミョウを倒し、サファイヤ星を救う事が彼の使命となった今、自分の弱さに負けるわけにはいかなかった。

 最初、ユウキは、非情になればいいんだと考えて試してみたが、人間の心を無くすと、コスモの力も弱まっていった。

 結局、怒りを制御する強き心しかないと、彼は、凄まじい気迫でサファイヤの死と格闘し、一か月ほどで我が心を鍛え上げる事に成功した。


 休む間もなく、戦闘力アップの為の修行へと進んだ。惑星を壊すわけにもいかないので、戦闘訓練は宇宙に出て、近くの小惑星などで行った。


「コスモ。今の僕の力は、君の力の何パーセントぐらい発揮できているのかな?」

『実を言うと、まだ一割程です』

 ユウキは、一割と聞いて、改めてコスモの凄さを思った。

「百%使えるようになったとして、気をつけることは?」

『当然、力のコントロールです。制御できないと、味方ごと吹っ飛ばすことにもなりかねません。戦う場所を選ぶことも大事ですね』


 再び、スペースとの修行が始まった。

『パワー全開で行きますよ!』

 スペースがパワーを全開にすると、大地が震え、身体がビリビリするような衝撃波がユウキを襲った。想像を絶するパワーにビビる暇もなく、スペースの拳がユウキの顔面に炸裂した。

「ウグッ!」

 感じた事もない重いパンチに、ユウキは気絶しそうになるのを懸命に堪え、体勢を立て直そうとした刹那、スペースのエネルギー弾をまともに受けて、数十メートルも吹き飛ばされた。

 コスモのシールドに護られている為大怪我はしないが、スペースの猛烈なパワーは、そのシールドまでも突き抜けて、ユウキの身体にダメージを与えていたのだ。

 一日が終わる頃には、殆ど記憶が無いくらいに疲れきっていて、気が付けば家のベッドで寝ていた。

 孤独で壮絶な戦闘訓練は、心身ともに疲弊する。ユウキは、ステラとサファイヤのアンドロイドを作ってもらい、せめてもの慰めとした。相変わらず、コスモの作品は本物と見分けがつかないくらい精巧なものだった。

 疲れて家に帰れば、サファイヤを抱いたステラが笑顔で迎えてくれる。ユウキは、それだけで身心が癒されていくのを感じるのだった。ユウキは、二人の存在が、どれだけ自分の希望となり、力になっているかを改めて思い知った。


 修行の合間に、ユウキには友達が出来ていた。怪我をしていた恐竜を介抱してやると、毎日のようにユウキの家にやって来て、魚などを置いていくのである。それもかなりでかい魚だ。刺身にしたり、焼いたり、炊いたりと、毎日、ステラが料理してくれるのだが、食べきれるはずもない。残りは、いつも賑やかな近所の鳥や動物達に振舞った。


 スペースとの激闘も、二カ月が経とうとしていた。

 相変わらず、スペースの動きは早すぎて、ユウキの目には殆ど見えない。ユウキは、打たれ続けながらも、その感覚を研ぎ澄ませていった。ただただ、懸命に見えないものを見ようと心に心を重ねた。それは、祈りとなり、誓いとなると、彼の五体を揺さぶった。

 その刹那、彼は不思議な感覚に襲われた。星も銀河も、大宇宙さえもユウキの心に収まり、大宇宙と一体になった自分を発見したのだ。その時、生きとし生けるもの全てへの慈しみの心が満ちて、宇宙をも動かすような無限の力がユウキを包んだかと思うと、ユウキの黄金のスーツは太陽のように光り輝いた。  

 スペースも、もはや敵ではなかった。そして、あの四体の守護神達の技までも身に着けて、修行は終わった。


 彼は星に戻り、家を処分し、あの恐竜に別れを告げると、ネーロ星の下見へと向かった。

 ネーロ星は、サファイヤ星から数千光年の位置にあり、その中間付近にネーロ軍の前線基地があった。彼は、まず、その前線基地がある星へと急いだ。

 それは、地球の月くらいの大きさのサタンという星で、周りにはたくさんの艦隊がいて、地表には巨大な基地があった。サファイヤ星の数十倍の戦力だとユウキは分析した。それ以上は警戒が厳重で近寄れず、次はネーロ本星へと飛んだ。

 短いワープですぐに着いたが、そのあたりに太陽は無く暗黒の宇宙が広がるばかりだった。

「コスモ、一体ネーロ星は何処にあるんだ?」

『目の前にあります』

「えっ!」

 ユウキが、センサーモードで見ると、そこにネーロ星が浮かび上がった。すでに太陽が燃え尽きたのか、ネーロ星自身が太陽の軌道を外れたのか分からないが、確かに、暗黒の星があった。大気は無く、地表には、荒涼たる砂漠が覆っているようだった。この状態では、とても人類が住めるようには思えなかった。上空には、大艦隊が待機していたが、地表に基地らしいものは見つからなかった。おそらく、地下に人類は住んでいるのだろうと推測された。センサーで地下を確認しようとした時、ネーロ軍の艦隊に見つかってしまった。

 今、戦う訳にもいかず、これ以上の長居は無用と、彼は、戦闘機の大軍を振り切って、サファイヤ星へと戻った。


 ユウキが、サファイヤ星に帰った時は、修行に出てから既に三か月が過ぎていた。

 ユウキの家は元通りに復元されていて、彼は帰るなり、挨拶もそこそこにサファイヤの居る部屋に急いだ。

「あら、サファイヤ、パパが帰ってきたわよ」

 丁度、ステラが母乳を与えているところだった。サファイヤは、ステラのお乳を無心に飲んでいた。ユウキの顔がゆるんで、修行の疲れも吹き飛んでいた。


 季節は冬の真っただ中となっていて、ユウキは、木々に積もる雪の情景を横目に、数日は、サファイヤの傍から離れなかった。三か月間、本物のわが子を抱くことが出来なかったので無理もなかった。

「あなた、あんまり抱きすぎると抱き癖が着くわよ!」

 ステラの甲高い声がユウキを襲った。

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