第23話 戦いの傷跡

ネーロ帝国軍に襲われた首都では、全軍で怪我人などの救出に当たっていた。

「ユウキ、ユウキ、大丈夫か!?」

 アレク将軍が、血まみれになって倒れているユウキを抱き起し、必死に声を掛けていると、意識が戻った。

「生きているのか?……」

 ユウキは、虚ろな目でアレクを見た。

「ユウキ殿、なにを気弱な。しっかりなさい!」

 叱咤する声の方に目をやると、戦闘服姿のアンドロメダ女王が、心配そうにユウキを見ていた。彼女も戦っていたのだ。ユウキはハッと我に返った。

「陛下、首都を守り切れず、申し訳ありません……」

 ユウキは、女王に手を取られながら、はらはらと涙を流した。

「何を言っているの。首都は守られましたよ」

 その言葉を聞いて、ユウキは、また気を失ってしまった。

「救急隊、彼を早く病院へ!」

 女王の指示で、ユウキは病院へと運ばれていった。


 数時間後、ステラと四万の兵士達がライト王国に帰って来た。彼らは、首都を見て愕然とした。黒い煙がそこかしこに上り、多くの建物が倒壊していた。王宮に駆けつけると、競い合うようにそびえ立っていた美しい建物が、無残に崩れ落ちていたのだ。

「手分けして、犠牲者を救出して!」

 ステラは気丈に指揮を取っていたが、レグルスが気を利かした。

「サルガス! ステラ様とサファイヤ様の安否を確認してくれ」

 レグルスは、ステラ達を見送ると、首都の被害掌握や救出作業にと、全軍を指揮した。 あの四体の守護神やスペースも、全力で救助活動に奔走していた。



 ステラが我が家の前に立ってみると、シールドが破壊され、そこには、瓦礫の山があるばかりだった。十拳士達が、瓦礫を掻き分け地下へと捜索に入った。

「最下層は無事です! 全員そこに避難しています!」

 報告を受けて、ステラも安堵し、地下に向かった。

「ステラ様! ご無事で」

「貴方たちも無事だったのね。良かった」

 多くの職員や兵士たちが、最下層の部屋で生きていた。

「サファイヤは何処?」

「……それが分からないんです。申し訳ありません」

 職員達は泣き崩れた。

「スピカ! 何処に居るの!?」

 ステラが叫ぶと、スピカの声が何処からともなく聞こえて来た。

『ステラ様、サファイヤは無事です。今、私が動くと、最下層も崩れてしまいますので、まず最下層の人達の避難をしてください』

 ステラは、十拳士を指揮して、地下の全員を避難させた。


「スピカ、出て来て!」

 ステラが地上から声を掛けると、瓦礫は音を立てて崩れ土煙が上がった。その煙の中から、二メートルほどの球体が上昇してきて、ステラの前に下りた。

 球体のドアが開くと、そこには、サファイヤを抱いたザウラクが姿を見せた。彼はニッコと微笑み、既に、こと切れていた。サファイヤは、何事もなかったように、ザウラクの腕の中でスヤスヤと眠っていた。

「爺!……」

 ステラは、サファイヤを抱き上げ、ザウラクの顔に手を当てた。

「爺、ありがとう。命を賭してサファイヤを護ってくれたのね。ありがとう」

 ステラの涙が、ザウラクの頬に落ちると、周りを取り囲んだ職員達から嗚咽が上がった。


「基地へ行きましょう。みんな歩ける?」

 一行は、被害の無い、軍の指令センターへと向かった。

 ステラがセンターに着くと、母アンドロメダが出迎えた。

「サファイヤ無事だったのね、よかった。ユウキ殿も無事よ、いま病院にいるわ」

 女王は、サファイヤを抱きとると、涙を流しながら頬ずりをした。


「お母さま、サファイヤをお願い。救助活動に合流するわ」

 ステラは、サルガス達を伴い、救助現場へと戻っていった。


 首都の復興は、急ピッチで進められた。なかでも、アースはじめ四体の守護神とスペースの活躍は目覚ましかった。宇宙最先端の技術の粋を集めて作られた彼らは、まるで魔法のように、次々と街を復元していった。約一月で首都が元の姿に戻ると、再び光となって、ユウキの中へ帰っていった。

 ユウキは、彼らが帰ると、胸に手を当てた。

「ありがとう、君たちのお陰でこの星は救われた。ご苦労様」

 感謝の思いが、涙となって溢れた。

『貴方の思いは伝わりましたよ』

 コスモの声が聞こえた。

 ユウキの怪我は、コスモが急所を外し、止血等の処置を施したお陰で大事には至らず、この頃には歩けるようになっていた。


 そこへ、復興活動が一段落したステラが顔を出した。

「あのロボット達、本当にすごいわね。街はすっかり元通りよ」

「彼らにも感謝は尽きないね。サファイヤは元気かい?」

「元気すぎるわ、私を困らせてばかりよ」

 ユウキは、大声で笑ってから、真顔になってステラに尋ねた。

「ところで、今回の戦いで犠牲者は何人くらい出たのかな?」

「首都では、二百名が亡くなったわ。その殆どは兵士だけど、でも、この数字は奇跡的よ。民間人に犠牲者が少なかったのは、戒厳令を敷き、シェルターへ避難させていたからね」

「そうか、二百名か、僕が不甲斐ないばかりに……。あの時、ムミョウの見せた、サファイヤの幻影に騙され、怒りを抑えきれなかったんだ。皆に申し訳ない」

 ユウキは、自分の膝を拳で打って、項垂れた。

「貴方のせいじゃない、自分ばかり責めないで。みんな、貴方に感謝しているのよ」

 ステラの慰めにもユウキの心は晴れなかった。


 一週間ほどして退院した彼は、ステラと共に、全犠牲者の遺族を一軒一軒訪問して励ました。困っていることがあれば親身になって相談に乗り、身の立つように計らったが、遺族の悲しみはどうしようもなかった。


 全ての家の訪問を終えた頃には、既に秋となっていた。川辺の木々の紅葉を楽しみながら、二人は歩いた。

「ステラ、戦争はまだ終わっちゃいない。ムミョウを倒さないかぎり、彼らは又やってくるだろう。もう一度修行をやり直すよ。暫く留守にしていいかな?」

「暫くってどのくらい?」

「分からないが、数か月はかかるかな」

「そんなに? サファイヤが寂しがるわ。何もかも、自分で背負わなくてもいいんじゃない?」

「コスモを纏った僕の使命だ。ついでに、ネーロ本星も偵察して来るよ」


 数日後、ユウキは、ステラとサファイヤに暫しの別れを告げて、宇宙へと旅立った。

 ステラは、自分が今まで感じて来た、先頭に立つ者のみが知る孤独を、ユウキもまた感じているのだと、空を見上げていた。

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