第21話 北極奪還作戦

 次の日からユウキは、北極進撃と首都防衛の準備の為、忙しさを極めた。帰ったと思ったら、ステラとサファイヤにキスすると、座る間もなく現場へと戻る日もあった。


 ユウキの家では、ザウラク爺が、張り切って警備の任に当たっていた。彼は、出勤すると、まず、サファイヤの顔をのぞきに来て、その、シワだらけの顔を更にクシャクシャにして、ひとしきり覗いた後、満足したように警備の仕事に出て行くのが常だった。

 そしてステラは、サファイヤの世話をしながら、引っ切り無しに入る軍からの問い合わせにテキパキと指示を出していた。彼女にも、既に休息の時間は無かったのである。

 

 八月十五日の朝、ステラは、サファイヤに母乳を飲ませて寝かせた。

「いい子でいるのよ」

 そう言って、ほっぺにキスをして玄関を出た。そこには、多くの職員たちが見送りに出ていた。

「姫様、ご無事で!」

「ステラ様……」

「サファイヤ様は、私たちが護ります!」

 言葉にできずに泣きだす者、抱き着いて離れない者、拳を握り締める兵士、誰もがステラが死んだと聞かされた、あの時の事を思い起こしていた。

「心配しないで、今度は必ず無事に戻るから、笑顔で送って頂戴。あなた、あとはお願いね」

 ステラは、留守を守るユウキに熱い視線を送ると、スペースを纏い、十拳士と共に出撃していった。


 サファイヤ軍の北部基地に着いたステラと四万の精鋭は、テントを張って爆弾処理部隊からの連絡を待った。

 爆弾処理部隊は、北極大陸の反対側からの上陸をめざし、既に五日前に出撃していて、それには、千体の爆弾処理ロボットと百名の監視兵が同行していた。

 彼らは、ステルスモードになって進軍し、十四日の未明に、サファイヤ軍の北部基地からのミサイル攻撃のどさくさに紛れて上陸して、それぞれの爆弾設置場所へと散っていった。

 爆弾処理が完了すると、ステラ達がその状況を把握できるようになっていて、すでに二割方の処理が完了しつつあった。


 そして、爆弾処理が八割を超えた十五日の夕刻、サファイヤ軍は北極へと進軍して、深夜を待って、北部基地からの本格的なミサイル攻撃が始まる中、怒涛の上陸作戦を決行したのである。

 ネーロ軍の戦闘部隊、戦闘機、砲座がこれを迎え撃ち、夜の北極大陸に轟音と火炎があがって、辺りを昼間のように照らし出した。

「第一舞台は砲座を叩け! 第二部隊は戦闘機を! 第三部隊は地下基地を破壊するんだ! 第四部隊は中央基地へ進軍せよ!」

 ステラの命令が全軍に響き、サファイヤ軍のスーツ部隊は、大きな生き物のように動き始めた。



 一方、留守を預かったユウキは、サファイヤ軍が北極へ上陸した事を聞くと、首都に戒厳令を敷き、首都シールドを起動して、重要施設の格納を命じた。すでに、都民には連絡が行き届いていて、全ては機敏に行われ、臨戦態勢は整った。


 暫くすると、予想通りにネーロ軍の戦闘機部隊が、空を覆った。

「迎撃態勢に入れ、首都には一兵たりとも入れるな!」

 ユウキは、一万の防衛隊に指示を出すと、首都全体を見渡せる上空に止まり状況を見守った。

『ユウキ、何かとてつもないパワーを感じます。気を付けて!』

「何なんだろう。そんなに強い奴が俺たち以外に居るのか?」

『宇宙は広いですからね。上には上がいるものです』

 その時、首都西部方面から、急報が入った。

「首都シールドが破られました!」

 ユウキが駆けつけると、ネーロ軍の戦闘機や戦闘服部隊が、シールドの穴から続々と中へ入って来ていた。すぐさま、ユウキが彼らを撃退して、シールドを修復した。それを、何度か繰り返している内、上空から、凄まじい光線がユウキを襲った。

 その光線はシールドに大きな穴を開け、ユウキを直撃した。彼は、地上に弾き飛ばされて、街の建物を破壊し、地中にめり込んだが、すぐさま空に舞上がり、その敵と対峙した。

 その敵は、ニシキヘビのような、赤と黄色のまだら模様の戦闘服を着ていた。力、速さ共に群を抜いており、スペースと戦った感覚に似ていた。

 ユウキは、こんな事があるのかと、その強さに身震いさえしていたが、久しぶりに全力で戦える相手と会えた事に、どこかで喜んでいる自分もあった。パワーとパワーの応酬で、大地を揺るがす戦いが展開されたが、勝負はつかなかった。

 ユウキが、心を落ち着かせようとした、その時、

「お前がユウキか? わしはムミョウ、ネーロ帝国の王だ!」

 敵の戦士が喋った。

「ムミョウ? お前がネーロ帝国の王なのか。貴様なんかに、断じてこの星を渡す訳にはいかない!」

 ユウキは、再び全力でムミョウに挑んだ。少しづつ拳やビームがムミョウを捉えるようになり、もう少しで勝てるところまで追いつめたが、ムミョウは、それをかわすようにフッと消えてしまった。


 ユウキは、戦況が気になって首都を見て回ると、あちこちに黒い煙が上がり、少なからず被害が出ているようだった。

 彼が、ふと、眼下に目を落とすと、崩壊した我が家の近くで、ムミョウが何かを持って立っているのが見えた。

「あれは一体?」

 降下し近づくと、ぐったりした赤ん坊のようで、衣服は血で染まっていた。それは見覚えのある、サファイヤのものだった。

「サ、サファイヤーッ!!」

 ユウキは、血が逆流するほどの怒りを抑えきれず、ムミョウに突進していた。

『ユウキ冷静に! あれは偽物です!!』

 コスモの激しい叫び声が聞こえた次の瞬間、ムミョウの拳がユウキの腹部を貫いていた。

「そんなものか?」

 ムミョウが不敵に笑って、その腕を引き抜いた。

「ゲホッ!」

 ユウキは血を吐き、ドッと崩れるように倒れ込んだ。

 近くに居た兵士達が、ユウキを護ろうと反撃したが、ムミョウの一撃で蹴散らされてしまった。

 気の遠くなるのを感じながら、ユウキは、サファイヤの方を見たが、ムミョウの左手には何も無かった。

「サファイヤ……」

 そう言うと、ユウキは気を失ってしまった。

 その刹那、ユウキの身体から四つの光が飛び出して、四体のロボットが現れた。彼らは、ユウキが戦えなくなった時に起動する守護ロボット達だ。


 アースは、重力を自在に操る。ブラックホールを作り全てを飲み込む。

 タイフーンは、気象を制御できる。巨大な竜巻を起こし、全てを吹き飛ばす。

 サンは、数万度の火炎で敵を焼き尽くす。

 ルナは、水、氷を使う、絶対零度の氷の剣で敵をなぎ倒す。


 彼らは、凄まじい力を発揮してネーロ軍を見る間に壊滅させると、最強の敵ムミョウと対峙した。

「なんだ、お前たちは? このムミョウの邪魔をするな!」

 四体のロボットの力は、それぞれコスモに匹敵している。さしものムミョウも、彼らの全力の攻撃を受けると、宇宙へ逃げてしまった。


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