第14話 ドグラ
「何かあったようです。都市コントロールセンターへ行ってみましょう」
二人は、タワー最上階のコントロールセンターへと急いだ。コントロールセンターとは、都市のハード面の一切を集中管理している部所の事である。
センターの入り口で、駆けつけたアラン議長と一緒になった。
「何があったのだ?」
議長は、センターに入るなりオペレーターに聞いた。
「ドグラが現れたんです。こちらに向かっています!」
「ドグラ? 何かの間違いだろう。あれは絶滅したはずではないか」
「それが、実際に現れたんです。土地の改良工事をしている場所に現れ、機械を破壊して進撃しています」
「……このままでは、都市は破壊されてしまうな。とりあえず、都市全域の防御シールドを起動せよ!」
「了解!」
センター内に緊張が走り、オペレーター達が慌ただしく動き出した。
「ドグラって何の事です?」
話の分からないユウキが、フラルに聞いた。
「この星に住んでいた巨大な蛇です。彼らが緑を食い尽くした為に、この星は不毛の地になってしまったと聞いています。私達が、百年前に移住した時には、食べるものが無くなって絶滅していたはずなんですが……」
その時、オペレーターの声が響いた。
「無人偵察機からの映像が入りました!」
空間に投影された立体映像に、皆が見入った。そこには、土煙を上げて赤茶けた大地を疾走する、蛇のようなものが見えた。直径十メートル、長さ二百メートルはある巨大な生き物だ。映像が拡大されると、光る目、大きな口、鎧の様な鱗は龍を思わせて、腹の鱗を動かして移動していた。スピードは時速百キロを超えているようだ。
「ドグラから、高濃度の放射能が検出されました!」
再び、オペレーターの声が響いた。
「放射能? 確か、ドグラが現れた付近にはウラン鉱脈があったな。ドグラは草食のはずだが、あのドグラは、そのウランを食べて生き残ったのかも知れない。街に入れたら大変な事になるぞ……」
アラン議長の顔が曇った。
「防御シールドで防げないのですか?」
ユウキが議長に聞いた。
「防御シールドの効果は、地上のみです。ドグラは、地中に潜れますから意味が無いのです」
「では、私に行かせてください。ドグラを殺せばいいんですね?」
「ドグラも一つの命、出来る事なら殺したくないのですが……。緊急時でもありますし、どう処理するかは貴方の判断に任せます」
アラン議長の返事は、歯切れが悪かった。
ユウキは、戦争の無い世界を作りあげた彼らだからこそ、人類を脅かすドグラのような怪物にも、情けをかけられるのだろうと感心した。
ユウキは、都市の防御シールドを解除してもらって、ドグラが進撃している地点まで一気に飛んだ。そこから、速度を落として暫く行くと、身体をくねらせながら砂塵を舞い上げ、地響きを立てて疾走するドグラを視界に捉えた。更に近付いてみると、圧倒されるほどの巨大な身体と、ギョロリと睨む大きな目は恐怖さえ覚えた。
ユウキは、その動きを止めるべく、ドグラの手前にエネルギー弾を数発撃ち込んだ。だが、凄まじい破壊力にもかかわらず、ドグラは前進を止めようとはしなかった。
ユウキが不審に思い、並行して飛びながらドグラを観察してみると、身体の一部が赤く変色している事に気付いた。
彼が、その腹の部分を透視してみると、
「ウラン鉱石が体内で核分裂反応を起こして、メルトダウンが始まっている!」
『ドグラは、腹を焼かれて暴走しているのです。このままでは、核爆発を起こすかもしれません!』
「参ったな……。コスモ、ドグラを助けてやりたいんだが、何とかならないかな?」
『四体の守護神を使えば可能です。彼らの能力は、あなたの脳にインプットされていますから、冷静に考えてみてください』
「守護神の能力? そうか、彼らの事を忘れていた。呼べば出て来るんだな? アース、タイフーン、サン、ルナ、姿を現せ!」
その刹那、ユウキの身体から四つの光が飛び出し、四体のロボットが姿を現した。
アースは、重力を操り、ブラックホールさえも作り出す。四体の中では一番の怪力。
タイフーンは、気象を操る。風を起こし、雲を呼び、雷を落とす。
サンは、炎を操る。数万度の火炎で何ものも焼き尽くす。
ルナは、水、氷を使う。絶対零度の氷の剣を持つ。
命令を待つ守護神達に、ユウキの声が響いた。
「先ずはアース。その怪力でドグラの動きを止めるんだ!」
『ラジャー!』
アースは、ドグラの前面に下り立つと、その鼻先に豪快なパンチを見舞った。「ズズーン!」ドグラは、コンクリートの壁に猛スピードでぶつかったように、顔を歪め横転して、その巨体で地面を削りながら止まった。だが、その腹の中は、いよいよ赤く輝いて来た。
「ルナ。冷凍光線で、ドグラの身体を冷やすんだ!」
『ラジャー!』
クリスタルのボディのルナが、その両手から冷凍光線をドグラに浴びせると、巨大な身体が、一瞬の内に真っ白に凍って、メルトダウンを始めていた体内のウランは冷却され、爆発の危機は去った。
「これで、一安心だ。次は、皆でドグラの体内のウランを取り除き、除染してくれ」
四体のロボットは、仮死状態になったドグラの体内に入り、ウランを取り除いて、放射能を除染した。
「コスモ。ドグラの遺伝子を操作して、元の草食に戻せるかな」
『お安い御用です』
スペースが現れ、不思議な光線を照射すると、ドグラは、大人しい草食動物に戻った。
「よし、最後はこいつの居住区を作ろう」
四体のロボットは、土地を整備し、鉄鉱石を掘り出し溶かし成形して、数十キロ四方の大地を囲む巨大な壁を作った。
そして、その中に湖を作り、魔法のように木々を茂らせ、数時間で、ドグラの住まいを完成させてしまったのだ。
「……まったく、ワンダー星の科学力には驚かされる。地球の魔法使いの伝説も、宇宙人の仕業だったのかもしれないな」
ユウキが、コスモや守護神達のとんでもない力に、改めて感心している間に、ドグラは、一鳴きして彼らに挨拶すると、作ったばかりの密林の中へ消えていった。
アラン議長とフラル達が、ユウキを見送る為、タワーのデッキに出ていた。
「ユウキ殿、貴方が、コスモを託すに相応しい人間である事が証明されました。早く、ステラさんの元へ駆けつけてやって下さい」
ユウキは、議長の言葉で、今回の事が、コスモを纏ったユウキ自身のテストだったことに気付いた。
これだけの科学力を持ちながら、ドグラ一匹の処理が出来ないはずは無かった。議長は、敢えて、ユウキにドグラの対応をさせる事で、彼の人格を見極めようとしたのである。
「ありがとうございます。お世話になった皆様に、くれぐれも宜しくお伝えください」
ユウキは何度もお礼を言って、ワンダー星を後にした。
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