第12話 ワンダー星

 三人は、宇宙船を近くの島に隠して、ユウキの家に戻った。ステラは、レグルスとサルガスを座らせ、宇宙での三週間の話を始めた。


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 ステラとユウキが宇宙船の中に入ると、意外と広い空間が広がっていて、運転室、居住エリア、機関室と三つの部屋に分かれていた。

 その、居住エリアの片隅に置かれているカプセルの中には、皮膚が茶褐色の若者が寝かされていた。

「この人が乗組員なのか?」

 ユウキが呟くと、突然、女性の透き通った声が船内に響いた。

『私は、この船を管理するコンピューターのアルファー。彼はワンダー星のソラン、既に亡くなっています。あなた方にお願いがあります。彼を、故郷のワンダー星迄送ってもらいたいのです。この船は、自動運転システムが故障している為、私が動かすことは出来ません。人間が介入すれば動きます』

「ワンダー星迄どれくらいかかるんだ?」

『十時間ほどです』

「分かった。だが、この女性は、心臓を悪くしていて動けないんだ。医療カプセルのようなものは無いだろうか?」

 すると、幾つかあるカプセルの一つが、音もなく開いた。

『そこへ彼女を』

 ユウキが、ステラをカプセルの中に寝かせると、扉が閉まり、幾つもの触手のようなものや光が動いて、ステラの身体を調べ始めた。ユウキが心配そうに見つめる中、診断は数分で終わった。

『心臓がかなり衰弱していますね。このままでは何日も生きられないでしょう』

「彼女を治すことは出来ないだろうか?」

『この船では無理ですが、ワンダー星に行けば手術が受けられます。それまでは、容態が悪化しないように、カプセルの中で体調管理します』

「ありがとう、宜しく頼む」

 ユウキは、ステラに口づけして、運転室へと上がっていった。彼は簡単な操作方法を教わると、外のレグルス達に格納庫の天井を開けてもらい、宇宙へと飛び立っていった。


 ユウキの運転する宇宙船は、ワープ航法を繰り返し、十時間ほどで、青く光るワンダー星に到着することが出来た。大陸は、荒涼たる砂漠が広がる惑星だった。

「本当にこんな所に人が住んでいるのか?」

『すぐに分かります』

 ワンダー星が近づくにつれて、所々に緑の大地が見えて来た。

『私達は、この惑星に移住して間もないのです。水と空気と鉱物資源はありますから、今は不毛の大地を改善している所です』

 

 ユウキの乗った宇宙船は、間もなく、緑の都市の空港へと下りて行った。

 宇宙船のドアが開くと、褐色の肌の青年が入って来て、ユウキに話しかけた。

「ワンダー星へようこそ。話はアルファーから聞いています。とりあえず、彼女を病院へ運びますので、一緒に来て下さい」

 青年が合図すると、何人かが入って来て、ステラとソランのカプセルを運び出した。外の空気は多少薄いと感じたが、呼吸するのに問題は無かった。

 ユウキ達は、移動車に乗って林立するタワーのような建物の中の一つに入っていった。

 そこは、病院だった。手術室らしきところに通され、暫くすると、医師が姿を現した。

「ステラさんの病状は、アルファーから送られて来ていますので、直ぐにも手術が可能です。人工心臓を移植するしか助かる道はありませんので、そうさせてもらいます」

「ステラの血液は、この星のものとは違うと思いますが、手術は出来るのですか?」

「問題ありません。ワンダー星では、手術は開胸せず、ナノマシンを注入して行いますので、血も流れませんし、手術痕も残りません。回復も早いですから安心して下さい」

「……よろしくお願いします」

 夢のような、この星の医療技術の凄さにユウキが感心している内に、ステラは手術台へと運ばれていった。


 三時間後、ステラは、病院の一室で目を覚ました。手を握って微笑んでいるのはユウキだった。

「手術は大成功だったそうだよ」

「……私、どうしたのかしら?」 

 ステラは、まだ、頭が混乱しているようだ。

「ここは、球形の宇宙船でやって来たワンダー星の病室だよ」

「あッ」と言って、ステラはベッドから跳ね起きた。

「心臓の具合はどう?」

 ステラが左胸に手を当てると、小気味よい心臓の鼓動が伝わって来た。彼女は、ベッドから降りて、手足を急速に動かしてみたが、今迄の様な息苦しさや、痛みは無かった。

「何ともないわ。治っている!?」

 ステラは、つい数時間前まで生死の間を彷徨っていた自分の身体から、魔法のように苦しみが消えた事が信じられなかった。だが、それは確かに現実の出来事だった。彼女は、喜びが心の奥から湧き上がると、涙が溢れ、微笑んでいるユウキに抱きついた。

「良かった。本当に夢のようだ」

 ユウキも感無量になって涙を流し、ステラを抱きしめた。


「先生の話では、その心臓は、百年は大丈夫だそうだ。これで、思う存分サファイヤ星の為に戦えるね」

「ええ、何と有り難い。ワンダー星の人にお礼が言いたいわ」

「この星のアラン議長が話があると言っていたから、今から行こう」

 ステラとユウキは、病院の関係者に礼を言って、議長府へと向かった。


「この度は、息子を連れ帰って下さってありがとうございます」

 議長は、二人の手を取って、涙ながらに頭を下げた。

「こちらこそ、こんな元気な身体にして頂いて、お礼の言葉もありません」

 ステラが、深々とお辞儀をして応じた。

「他に私達に出来る事があれば、何でも言って下さい」

 議長の申し出に、ステラは少し考えてから口を開いた。

「私達は、今、ネーロ帝国という敵と戦っています。このユウキは、私の愛する人。彼と共に帰りたいのですが、彼はまだ戦士ではありません。出来るなら、彼を護る戦闘スーツのようなものがあれば、お譲り願いたいのですが……」

「なるほど。あなた方の戦争に直接干渉をするわけにはいきませんが、それくらいなら大丈夫でしょう。ただ、私達には、何千年も戦争はありませんでしたので、戦いの為の武器は持っていません。この星の再生の為に作られたロボットがありますので、それを基にして作ってみましょう。何ヵ月か時間が掛かりますが、よろしいですか?」

「何ヵ月もですか……」

 ユウキが、意外だという表情で呟いた。

「科学が発達していても、何でも簡単に作れるわけではありません。それに、どうせ作るなら最高のものをプレゼントしたい。設計から始めなければなりませんから時間はかかります」

「分かりました、それでお願いします。私は、サファイヤ星に帰らなければなりませんから、ユウキを置いていきます」

 ステラは、そう言ってユウキを見た。ユウキは、ステラと別れたくなかったが、全て自分の為だと思いなおして頷いた。

「乗って来た宇宙船は差し上げますから自由に使って下さい。修理は終わっています」

「何から何まで、有難うございます」 

 二人は丁重に礼を言って、議長府を後にした。


 二人は、出発前の時間を宇宙船の中で過ごした。ステラとユウキは、最後の別れを惜しむように、求めあい、愛し合って、夫婦の契りを結んだ。

 そして、ステラは地球へと帰っていった。


  ―――――――――――――――――――――――――


 ステラの、ワンダー星での話は終わった。

「有難い事です。ステラ様が元気になられて、こんなに嬉しい事はありません」

 レグルスは、良かった良かったと、何度も頷いた。

「ありがとう、レグルス、サルガス」

 彼らは、手を取り合って嬉し泣いた。


 その日、三人が乗った宇宙船は、一路、サファイヤ星に向かって飛び立っていった。

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