第11話 エイリアンの宇宙船

 次の日から、レグルスとサルガスは、基地に泊まり込みで謎の球体の調査に全力で当たった。彼らには、風前の灯火であるステラの命を、何としても救いたいという、その一点しかなかった。

 有難いことに、米大統領の呼びかけに、世界から優秀なメンバーが集まっていた。大統領も、純粋に彼らを故郷に返してやろうと決断したようだ。


 扉を開けるポイントを、心、声(音)、電波などに絞り、一つ一つ着実にテストしていった。それは根気のいる仕事で、作業は深夜にまで及び、睡眠が二時間ほどの生活が続いた。


 調査を始めて一月が過ぎると、調査団は、何の進展もない事に苛立ち始めていた。それは、レグルス達の科学力なら、早急に結果が出るだろうと思っていたからだ。

 そんな雰囲気を察したレグルスは、軍と相談し、昼食に酒とご馳走を出して皆の苦労をねぎらった。

 皆、美味しそうに食事し、お酒を飲みながら歓談した。その日はゆっくり休んで、明日から頑張ろうという事になった。


 あくる日、レグルスは、話を整理するために全体会議を持った。

「球体に声をかけた時、何か変化が起きたような気がしたのですが」

 レグルスが皆に聞くと、一人の博士が声を上げた。

「私も同じです。球体が、何かを訴えようとしているような、思念のようなものを感じました」

「では、一度、英語の全データを電波で送ってみてはどうだろう」

 年配の言語学者が言った。

「念のため、言語翻訳装置も使ってみましょう」

 レグルスが、そう言いながら席を立つと、皆もそれに続いた。それぞれに分担を決め、急ピッチで準備が進められ、昼すぎには完了した。

 ガラス越しに球体が見える指令室から、言語データが送信され、翻訳装置を起動すると、球体が仄かに輝きだした。

「オオッ!」

 誰からともなく感嘆の声が上がった。初めて球体が反応した瞬間だった。

「突破口は開けましたね!」

 レグルスが微笑んで、サルガスと握手を交わした。早速、マイクを通して色々と話しかけてみたが、その日は、それ以上の進展は無かった。


 皆が引き揚げた閑散とした格納庫に、ステラを車椅子に乗せたユウキが顔を見せた。

「ステラ様、動いて大丈夫なのですか?」

 レグルスとサルガスが駆け寄った。

「今日は気分がいいから、ユウキに連れて来てもらったのよ。エイリアンの宇宙船の扉は開いたの?」

 ステラの声は弱々しく、顔に生気は無かった。彼女は、サファイヤ星へ帰る方途が開かれるのではないかと、無理を押してやって来たのだ。

「残念ながら、今一歩というところです。文明の進んだ宇宙船なら、船体を管理するコンピューターが反応するはずだと思うのですが……」

 レグルスが無念そうに答えた。

「ユウキ、私を抱き上げて。球体に触れてみたいの」

 ステラは、ユウキに抱かれながら、球体を手で触り、静かに話しかけた。

「聞いているなら答えて、貴方に危害は加えない。どうしてもあなたの力を借りたいの、お願い……」

 彼女は球体の壁に手を置き、念じるように額を付けた。その時、緑の球体が大きく輝いたかと思うと、ユウキとステラの身体が、球体の中にフッと消えた。

 ステラ達を見守っていたレグルスとサルガスは「あっ!」と驚き、球体に駆け寄った。だが、ステラとユウキが消えた辺りを触ったり叩いたりしてみたが、入り口らしきものは何も無かった。

 そうこうしている間に、突然、球体がフッと浮きあがった。レグルス達が驚いて飛びのくと、

「格納庫の天井を開けてください!」

 ユウキの声が、何処からともなく聞こえて来た。サルガスが指示通りに天井を開けると、球体は静かに急上昇し、夜空へと消えていった。

「やはり宇宙船だったようですね」

 サルガスが、夜空を見上げながらレグルスの返事を待った。

「何処へ行ったんだろう、ステラ様は大丈夫なのだろうか?」

 そこへ、どやどやと、司令官や警備兵達がやって来た。

「何があったのです!」

 レグルスは、球体がステラ達と共に何処かへ飛び去ってしまったと、有り体に答えて、

「帰るのを待つしかないですね」

 と、結んだ。


 ステラとユウキが帰って来るまで、レグルス達は、約束の新型ロケットエンジンの開発作業に入った。

 引き続き世界の科学者達も加わり、工場内は熱気を帯びていた。レグルスが提供した設計図を基に、部品の発注、製造、組立と、大忙しの日々が続いて、驚異の三週間でエンジンは完成し、性能テストの日となった。原子力を使った光子ロケットで、光速に近いスピードが出せる。地球文明にとって画期的なエンジンであるが、ワープ航法は出来ない。

 テストは大成功となり、一年後に、太陽系を一周する有人ロケットの打ち上げが発表された。


 完成の祝賀会が終わった頃、ステラは帰って来たが、ユウキの姿は無かった。驚いた事に、ステラの心臓の病は完治し、元気になっていたのだ。彼女は、宇宙船の操縦の解明に時間が掛かった事、自分たちの星へ帰る目途が立った事、出来る事なら一日でも早く旅立ちたい事を司令官に伝えた。

 司令官は、政府の決済が下り次第、旅立つ事を許すと答えた。彼らには、エイリアンの宇宙船の事よりも、光子ロケットの方が今は大事件のようで、それはそれでステラ達にとっても都合がよかった。

 翌日決済が下りて、ステラ達は日本への帰路に就いた。

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