第10話 米軍の思惑

 太平洋艦隊の基地である、カリフォルニア州のサンジエゴ海軍基地の軍病院で、ステラは検査と治療を受けた。だが、彼女の心臓は手の施しようもないほど弱っていたのだ。

 一週間が過ぎて、ステラの意識は戻った。傍には、ユウキの心配そうな顔があった。

「……私の修羅の顔を見たの?」

 ベッドの上のステラが、目を伏せながら、微かな声でユウキに聞いた。出来る事なら、あの姿をユウキには見せたくなかったからだ。

「ああ、美人の鬼さんだったよ。どんな姿でも、僕はステラが大好きだ」

 そう言って微笑むと、優しくキスをした。ユウキの優しさが身に染みて、ステラの緑の瞳が潤んだ。

「レグルス達も助かり、核攻撃も回避できた。すべて、君のお陰だ」

「そう、良かった……」

 ステラは、そう言うと、また眠りについた。


「もはや、回復は見込めません。今でも心臓が動いているのが不思議なくらいです」

 医師は、顔を曇らせるばかりだった。


 ユウキは、レグルス達にステラの様態を知らせる為に、彼らの部屋を訪れた。

「どう、元気になった?」

「ステラ様の様態はどうなんです?」

 レグルスが心配そうに聞いた。

「予断を許さない状況です。今は眠り続けています」

「また、あれをやってしまったんですね。私達が不甲斐ないばかりに、申し訳ありません」

 レグルスは涙ぐみ、サルガスは声を上げて泣いた。


 数日が経って、レグルス達が回復した頃、ジョーンズ大佐が現れた。彼は、大統領からの親書をレグルスに手渡した。その中には、ステラ達の活躍を絶賛し礼を述べた後、ネバダ州のネリス空軍基地に来てもらいたいとの内容が書いてあった。レグルスは快諾し、軍や病院の関係者に礼を述べて出立の準備に入ったのだが、ユウキは、ステラに付き添って残る事になった。

「ユウキ殿、ステラ様を頼みます」

 レグルスとサルガスは、ステラの寝顔を見てユウキに言葉をかけると、ジョーンズ大佐と共にネリス空軍基地へとヘリで出発した。


 ヘリの中で、レグルスが大佐に話しかけた。

「お国の方たちの中には、我々の科学力の粋を集めた戦闘服に、興味がある人がいるんじゃないですか?」

 大佐は、少し驚いたようにレグルスを見て、お手上げのポーズをして見せた。

「お見通しなんですね。実は軍の上層部から、スーツの情報を提供するよう説得してほしいと頼まれています」

「では、ネリス基地での要件は、その話ですか?」

 サルガスが、なんだというような顔をして聞いた。

「詳しくは話せませんが、その話もあります」

 と、大佐は含みを持たせた。


ほどなくして、ネリス基地に着くと、物々しい警戒態勢が敷かれていた。二人が一室に通されると、既に、高官らしい人物が中央に座り、左右には、軍服を着た上級士官達が並んでいた。長身で口ひげを蓄えた中央の高官は、国防長官だと紹介された。物々しい警備は彼の為だったのだ。彼は、二人に着席を促すと、

「大統領から、皆さんにくれぐれも宜しくとの伝言を預かってまいりました」

 と前置きして、本題に入った。

「早速ですが、我が国としては貴方たちの戦闘服の技術を是非提供して戴きたいのです。 そのお返しと言ってはなんですが、エリア五十一にエイリアンの宇宙船が保管されています。話を伺いますと、貴方たちは宇宙船を破壊され、帰る術がないと伺っています。今は動くかどうかも分からないのですが、一度その宇宙船を見てはどうでしょう。動くものなら差し上げます」

「交換条件という事ですか?」

 レグルスは、長官に厳しい目を向けた。

「動けばの話ですが、私どもの科学力では解明は難しいのです。これからご案内します」 長官は席を立つと、レグルス達を促し、ヘリでエリア五十一へと向かった。


 エリア五十一で知られる基地に着くと、ここでも、厳戒態勢で迎えられた。

「ここからは、一部の軍関係者以外は入れないエリアです」

 長官はそう言いながら、一つの格納庫の地下へとエレベーターで下りて行った。そこは、大きな地下格納庫になっており、数機の最新鋭機らしい機体があって、その奥に、一種変わった物体が姿を現した。

 直径は十メートル位だろうか、鈍い緑色をした球体で宇宙船のイメージとは、かけ離れたものだった。

「これが、その宇宙船です。いや、らしきものと言った方が適切かもしれませんが……」

 長官はそう言って、球体の周りをぐるっと案内した。

「外装には傷一つありませんが、入り口が無いのです。色々試してはいるのですが、今まで、何も解明されていません。あなた達の星のものですか?」

「いいえ、このような物は見たことがありません」

 レグルスが答えると、長官は、残念そうに頷いた。

「間違いなく、異星人のものでしょうね。この船を動かすことが出来たら本当にいただけるんですか?」

 レグルスが興味深そうに球体を見ながら聞いた。科学の発達したエイリアンの宇宙船なら、ステラをすぐにでもサファイヤ星に連れて帰って、治療を受けさせることが出来ると思ったからだ。

「差し上げます。ただし、例のスーツを一体だけ提供してもらいたい」

「今の地球の科学力では、あれを解明するにしても、百年はかかるでしょうね。作り方が全然違うのです。私共も科学者ではないので、技術の手ほどきは無理だと思います」

 レグルスが、説明すると、

「何とかならないですかね?」

 長官は、懇願するような目でレグルスを見た。

「長官。私共としましては、強力な兵器を一国だけに提供することは出来ません。この星の為にならないと思うからです。しかし、宇宙開発など、全地球的な分野なら多少の協力は出来るでしょう。例えば、次世代の新エンジンの技術提供でしたら、私達でも何とかなります。一度検討して下さい」

 レグルスは、自分たちの思いを端的に話した。

「検討しましょう」

 長官は、前向きに検討すると応じた。

 会議室に戻り、今後どうするかを意見交換した。とりあえず、レグルス達と米軍共同で球体の解明をすることに決まり、新エンジンの件も、世界の頭脳を結集して、共同開発することが決定した。

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