第9話 決戦スコーピオン

 太平洋上では、米軍の太平洋艦隊が、ネーロ帝国のロボット、スコーピオンの潜む海域を、戦艦、巡洋艦、空母などで包囲し、爆雷や魚雷で一斉攻撃を開始した。「ドン! ドン! ドドーン!」無数の爆発が海中で起こり、白い水柱が上がった。

 暫くして、赤いレーザービームが海中から放射され、巡洋艦の側面を直撃した。その直後、巡洋艦のすぐ横に、黒いサソリ型のロボット、スコーピオンが無傷の姿を現した。

 全長15メートルと、かなり大きい。スコーピオンは浮上するなり、その両腕のドリルビームを起動させると、唸りをあげて巡洋艦に襲い掛かった。巡洋艦の厚い装甲は、ドリルに触れた途端、瞬時に溶けて大きな穴が開いた。

 その穴から、スコーピオンが艦内に入って暴れまわり、再び姿を現した時には、巡洋艦は大破し海中へと沈んでいった。それは、数分の出来事だった。

 米艦隊は、味方の艦の近くでスコーピオンに暴れられると手も足も出せず、次々とスコーピオンの餌食となり、海の藻屑と消えていった。

 米軍は、艦同士の距離を開ける作戦を取って、スコーピオンが次のターゲットに向かうところを攻撃したが、シールドに護られたスコーピオンに傷一つ付けることは出来なかった。


 そこへ、ジョーンズ大佐とステラ達がヘリで到着した。彼らの情報をもとに、作戦会議が空母カール・ビンソンで行われた。

 レグルスが、自分達がエイリアンである事を話すと、一同は、まさか、と言って顔を見合わせたが、眼前の化け物の様なスコーピオンの存在を思うと、納得せざるを得なかった。

 艦長は、大統領の水爆の使用許可が出た事を告げたが、ステラは、自分達に時間をくれるよう頼んだ。核を使えば汚染の問題もある。それ以前に、この災いを連れて来た自分達が、決着を付けるべきだと思ったからだ。艦長は最初難色を示したが、懇願するステラの気持ちに免じて「三十分待ちましょう」と言って席を立った。


 米軍は、水爆投下の作戦を開始した。艦隊を退避させ、水爆を搭載した爆撃機は、本土の基地を飛び立った。水爆でスコーピオンのシールドが破れるかどうかは、ステラ達にも分からなかった。


 ステラ達三人は、スーツを纏うと空母を飛び立った。彼女には、スコーピオンに対して一つの勝算があった。それは、触れるものすべてを破壊するというスコーピオンのドリルビームは両刃の剣でもあるという事だった。

 三人はスコーピオンの居る海域に着くと、米軍の艦隊からスコーピオンを引き離す為に、近くの島に例の発信機をセットして待った。


 暫くすると、スコーピオンが島に這い上がって来た。対峙してみると、十五メートルの体長はかなり大きく感じた。スコーピオンは、ステラ達を見つけるなり、尻尾の先端のビームを放ち、盛んに攻撃して来た。だが、ステラ達がビームの発射口目掛けて、一斉に渾身のエネルギー弾を撃ち続けると、尻尾の発射口を破壊する事に成功した。

「右腕に組み付いて!」

 ステラが叫ぶと、レグルス達はスコーピオンの右手に組みついた。ドリル部分の直径は二メートル位あるが、その腕部分は五十センチほどで、辛うじて腕が回った。スコーピオンは、彼らを振り払おうと狂ったように暴れだした。二人は、腕を抑える事が出来ないまま、必死に食らいつくしかなかった。その間、ステラはスコーピオンの頭部にエネルギー弾を浴びせ続け、援護射撃を行っていた。

 しびれを切らしたスコーピオンが、右腕にしがみ付くレグルス達目掛けて、赤く燃える左のドリルビームを一気に振り下ろした。レグルス達が、間一髪の所で後方に飛び退いた刹那。

「ドドドーン!!」

 スコーピオンの右腕は、凄まじい閃光と共に、その付け根から吹き飛んだ。

 スコーピオンを倒す最大の武器。それは、他ならぬスコーピオンのドリルビームだったのである。


 左腕一本となったスコーピオンは、最後の力を振り絞って三人に襲い掛かって来た。レグルス達が、再びその腕に組みついて、真っ赤に燃えるドリルの腕をスーツのフルパワーで押さえつけ、スコーピオンの頭部に押し付けようとした、その時、

「危ない!」

 ステラの声が響いた途端、スコーピオンの尻尾が鞭のようにしなり、レグルスとサルガスを地面に叩き落とした。そして、赤いドリルビームが、唸りを上げて二人を襲おうとした瞬間、ステラが、二人の盾になる形で、ドリルビームを両手で受け止めた。

「ウウッ!」

 ドリルの威力に圧倒され、彼女は、ズズッと後退しながら懸命に踏ん張ったが、スーツはシュウシュウと音を出して溶けだし、シールドは今まさに破られようとしていた。

「ステラ様!!」

 レグルスとサルガスが、必死の形相でステラを突き飛ばした瞬間、真っ赤なドリルビームが二人を直撃して、数十メートルも弾き飛ばされてしまった。

 二人は、スーツを無残に破壊されて地面に打ち付けられ、ピクリとも動かなかった。


「レグルス、サルガス!!」


 ステラが叫びながら二人に駆け寄り、身体をゆすったが反応はなかった。

 彼女は、レグルス達の名前を呼んで泣き崩れていたが、その身体が震え始め、スーツから陽炎の様なものが立ち上った。顔を上げた彼女の眼は真っ赤に変色し、髪は逆立ち、その形相は鬼のように変貌していた。修羅化である。

 「許さぬ!」ステラはそう叫ぶと、いきなりエネルギー弾をスコーピオンの頭目掛けて撃ち続けた。何故か、そのパワーは桁違いにアップしていた。彼女の怒りがスーツの力を増幅し、修羅鬼と化して暴走を始めたのだ。

 ステラは、スコーピオンが怯んだ隙に左腕を取ると、そのままスコーピオンの頭目掛けて一気に押し付けた。「ドドドーン!!」、轟音と共に、スコーピオンの頭部は完全に破壊され、動きが止まった。だが、ステラの怒りは収まらない。かまわず、特大のエネルギー弾を撃ち続けた。


 その時、上空に現れたのはユウキだった。ステラの身体が心配で、来てしまったのだ。彼は、レグルスのスーツから送られて来た映像を全て見ていたから、状況は直ぐに分かった。

「ステラ、ステラ!」

 ユウキが、エネルギー弾を撃ち続けるステラの背後から呼びかけたが、彼女が振り向く気配はなかった。

「ステラ!!」

 大声で腕をつかんだ瞬間、ステラの赤い目がユウキを睨みつけたかと思うと、彼女のエネルギー弾がユウキに炸裂し、二十メートルほども吹き飛ばされた。いつものステラとは桁違いのパワーだった。スコーピオンは既に跡形もなかったが、正気を失ったステラは尚も撃ち続けていた。

 ユウキは意を決し、彼女の前面に出て、エネルギー弾をまともに受けながら、徐々に近付いていった。スーツの警報が鳴りっぱなしになり、ダメージも半端ではなかったが、核攻撃の時間も迫っていた。早く止めなければと更に近付き、ステラを抱きしめた。振りほどかれそうになるのを堪え、離してなるものかと、気が遠くなるのを懸命に堪えながら抱きすくめた。

「ステラ、ステラ、僕だよ、ユウキだ。もういいんだ、終わったんだよ。怒りを静めておくれ……」 

 ユウキは眼をつぶり、ステラの心に届けと祈った。そして、マスクを収納し、その顔を見せた。

 すると、ステラの力がフッと抜けて、彼女の眼は赤から緑へと戻っていった。

「ああ、ステラ」

 ユウキが更に抱きしめると、ステラはグッタリとなって気を失った。


 彼はステラを背に、レグルス達を両脇に抱え空母へと戻ると、彼らの治療と、水爆攻撃を中止するよう伝えた。

 艦長たちは、彼らの戦いをスーツから発信された映像で見ていた為、既に、核を積んだ爆撃機は「攻撃中止!」の命令を受け、大きく旋回し帰路についていた。

 レグルスとサルガスは、一命を取り留めることが出来たが、修羅化で無理をしたステラは重体となって目を覚まさなかった。

 彼らを乗せたジェットヘリは、アメリカの軍病院へと急行した。

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