第4話 グラース来襲

 ステラが、脱出ポッドから必要なものを持ち帰った時には、戦闘スーツを脱いでいて、赤いブレスレットが手首にあった。

 持ち帰った通信機で何度か連絡を試みたが、仲間からの返答はなかった。ステラは、こちらの位置が仲間に分かるようにと電波を送り続ける事にした。

 一週間が経ち、ステラは、記憶が戻った時のようなよそよそしさは無くなっていたが、相変わらず、彼女が醸し出す威厳の様なものがユウキを近寄り難くさせていた。

 それでも、上辺は前と同じような生活が戻り、ステラも当たり前のように主婦業を熟していて、男言葉も少なくなっていた。

 彼女は、地球人には聞こえないという通信機で、仲間へ呼びかけたり、ブラジルや太平洋の異変等の、情報収集に余念がなかった。

 ステラのスーツは、高速で空も飛べるらしく、アマゾンの現場へ行こうかとの話になった事もあったが、あれから一年、彼らが、そこに留まっている可能性は限りなく低かった。


 そんなある日、ユウキがポツンと言った。

「あの時、敵のロボットも、地球に侵入した可能性はないのかな?」

 ステラの緑の瞳が、キラリと光った。

「その可能性は高いと思うわ」

「だったら、このまま電波を出し続けると、敵に居場所を教える事にもなるんじゃないか?」

「そうかも知れないけど、今は、仲間が生きていることを信じて、電波を送り続けるしかないわ」

 あの隕石群の中に、敵のロボットが紛れているかもしれないことは、ステラが最初から懸念していた事だった。ネーロ帝国のロボットが、この地球で暴れ出す事になれば、人類の大きな脅威になることは明らかで、それは、自分達の責任において処理しなければならない最優先事項だと思っていた。

 

 それから数日か経った夜の事、突然の轟音と地響きで二人は飛び起きた。窓を開けると、港の方角の空がオレンジ色に染まっていて、その下の、街の建物のそこかしこから、火炎が上がっていた。そして、その炎は、段々こちらに向かっているように見えた。ステラは、ネーロ軍のロボットだと確信し、発信機のスイッチを切った。

「ユウキ、逃げるぞ!」

 ステラが、叫んで外へ出ると、近所の人達も異変に気付いて、家から飛び出していた。

「ユウキ、こちらにロボットが近付くようなら、皆を連れて山の方に逃げてくれ。私は、何とかあのロボットを止めてみる」

 ステラは早口にそう言ってスーツを纏い、ステルスモードで夜空に舞い上がった。


 ステラが、海岸付近の上空に出ると、身長が五メートルはあろうかという赤茶けた人型ロボットが、頭部の大きな一つ目からオレンジ色の光を放って、狂ったように建物を破壊していた。近くには、逃げ惑う多くの人影が見えた。

 このロボットは、ネーロ軍の新型ロボット、グラース。頭に付いている大きな目自体が、センサーになり、レーザー砲にもなるのだ。そして、その目は自在に動いていた。


 ステラは、ステルスモードのままロボットに接近すると、両の拳をロボットの方向に突き出し、手の甲からエネルギー弾を数発放った。

「ズドドドーン!!」

 エネルギーの光弾は、ロボットの頭部に炸裂したが、何のダメージも与えることは出来なかった。

「くそっ、やはりシールドで護られているのか?」

 攻撃を受けて、振り向いたロボットの目がステラを認識した途端、そのレーザー砲が火を噴き、オレンジ色の特大ビームがステラの戦闘スーツをかすめ、空の赤い雲までも吹き飛ばした。

「何という破壊力なんだ!」

 ステラは、逃げながらエネルギー弾で応戦し、対応策を考えていた。

 ロボットは、敵が現れたことで戦闘モードとなり、辺り構わずレーザー砲を撃ちまくっていた。民家やビルが次々と破壊されて、辺りは火の海となっていった。


 ユウキと近隣の住民達は、山の中へ避難してこの光景を見ていた。火の海となって街が焼け、空が不気味な赤に染まるのを見ながら、彼らは、身を震わせて見守るしかなかった。


 ステラは、スーツのシールドのパワーを上げて、ロボットのレーザービームを器用にかわしながら、その後方から首に取り付いた。ロボットの頭は三百六十度回転するから、レーザー砲の餌食にならないように、その頭を両手で抑え込んだまま空へ飛びあがった。ステルスモードの為、周りの人間には、ロボットが自力で浮き上がったようにしか見えなかった。ステラのスーツには、数十トンの物を持ち上げるだけのパワーがあるのだ。


 ロボットは、ステラを振り払おうと暴れたが、彼女は必死に食らいついて離さなかった。

 ステラは、暫く海上を飛んで、太平洋の真ん中付近に来ると、ロボットを離した。ロボットは、一度落下しかけたが、飛行装置を起動させて、ステラの前面に浮き上がって来た。

 

 ステラは、強力なシールドで護られたグラースを、破壊する事は難しいと判断して、飛行出来ないようにすれば、時間稼ぎになると、最大級のエネルギー弾を、連続してグラースの足の飛行装置に向けて打ち続けた。すると、飛行装置にダメージを与えたのか、グラースは体勢を崩し、ビームを放ちながら海中へと落ちていった。



 ユウキの街では、多くの家が破壊され、火災は朝まで消えなかった。グラースの映像がテレビで放映されると、世間は何が起こったのかと騒然となった。

 政府も、謎のロボットの出現に驚き、緊急会議を開き、現地の復興と調査、米軍への応援要請を決定した。自衛隊が出動しグラースを捜索したが、見つけることは出来なかった。幸い、ステラの存在がニュースになる事は無かった。

 ユウキの家はかろうじて難を逃れたが、犠牲者が多く出た今回の事は自分たちの責任でもあると、ステラは自分を攻めた。

「仕方ないさ、ステラの責任じゃないよ」

 ユウキの慰めも、彼女の心には響かなかった。

「あのロボットは、またやってくるわ。早く対策を立てないと……」

 ステラの顔が、一層、厳しくなった。

           

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